中島みゆき

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中島みゆき

朗々と、力強く流れてゆく、
耳で聞く11篇のショート・ストーリー。
中島みゆき2年半ぶりのオリジナル・ニュー・アルバム『短篇集』リリース!

(初出『Groovin'』2000年9月25日号)

中島みゆき-A.jpg 私は短篇集を愛読している。長編を読破する根気がない性質も原因のひとつではある。しかし、私が気に入っているのは、1冊の本に詰まっている世界の多様性。短いストーリーが寄り集まった本の中には、いろんな人が生きていて、たくさんの出来事や思いが存在している。作品の数だけ世界が存在し、主人公が存在するのだ。さらに短篇集の中には、作者の遊び心というか、実験的なストーリーや表現が多く、書き手の思わぬ一面が垣間見られる点も興味深い。また、読者にとっても気軽に手に取り、読み進められるというのは何よりの利点だろう。
 10月18日にリリースされる中島みゆきのニュー・アルバム『短篇集』には、11篇の物語が収められている。以前から、彼女の"多くを語らずとも、大きな感情を伝える"ストーリー性のある詞のスタイルに、短篇小説に近い感覚を覚えていた私にとっては、これぞ中島みゆきというタイトルである。また、小説にはリズムやテンポといった音楽に近い要素も多く、両者は非常に似かよった表現手段なのかもしれない。そうくれば、「音を追いかける」という普段の音楽の聴き方からちょっと離れて、あえて「物語を聞く」という接し方がふさわしいように思う。もちろんここで誤解しないでほしいのは、詞の部分だけに重点を置いて言葉を追いかける、というのではないという事。彼女の魅力の一つである情緒的なメロディにのって力強い歌声で語られてこそ、中島みゆきの『短篇集』なのだから。ここで、そのストーリーをあかしてしまっては興ざめなので、いくつかの作品に少しだけ触れてみると…。
 「帰省」では身近な出来事の中に、都会で荒んだ人々の心をやさしくさせる力が眠っていることに気付かせてくれるし、「結婚」では、わかっていると錯覚していたその本質を、禅問答のような投げかけで私達に問うてくる。また「Tell Me,Sister」はうわべだけの美に翻弄されている若い世代にはぜひ聴いて欲しい。ラストはシングルとして発表された「ヘッドライト・テールライト」が収録されているのだが、〜旅はまだ終わらない〜と締めくくられるフレーズに、新たな物語を紡ぎ続けるだろうこれからの彼女の姿が浮かんできて、このアルバムに作者のあとがきがあるとすれば、この部分なのだろうと思えてくる。
 11篇の物語の登場人物が呟く言葉には、彼女のメッセージが込められている。その問いかけに咄嗟に応えるのは難しいかもしれない。人生の命題のような、哲学的な部分もあるからだ。だけど、彼女の物語からあなたなりに感じたものを大事にして欲しいと思う。音楽も小説も、楽しいだけで受け手が「考える」ことを必要としないものが増えてきた。そんななかで、中島みゆきは私達の心にしっかりと問いかけてくる貴重な「歌人」なんだと、この『短篇集』で改めて認識させられた。言葉を伝える手段として音楽を奏でる「歌人」。時に優しく、時に厳しい言葉の数々はメロディに乗って、あなたの新しい心のページを開けてくれるかもしれない。

Text by 鮎川夕子(編集部)

『地上の星/ヘッドライト・テールライト』
中島みゆき-1J.jpg




CDS
ヤマハミュージックコミュニケーションズ
YCDW-00001
¥1,000(税抜)
発売中

先行シングルとしてリリースされ、好評を得ている本作は、NHK総合テレビ毎週火曜日(21時15分〜22時)放送「プロジェクトX 挑戦者たち」の主題歌/エンディング・テーマとなっている。

『短篇集』
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CD
ヤマハミュージックコミュニケーションズ
YCCW-00002
¥3,000(税抜)
10月18日発売

前作『わたしの子供になりなさい』から2年半ぶりにリリースされるオリジナル・アルバム。先行シングル「地上の星/ヘッドライト・テールライト」を含む全11曲。中島みゆきの曲を最大限に表現するために集まったスタッフと東京・LAでレコーディングされた。

【中島みゆきオフィシャルサイト】http://www.miyuki.jp/

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