マドンナ

"女王マドンナ" 健在 !
デビュー以来、常にシーンの頂点に君臨する世界一の"ラッキースター"が今世紀最後に放つ
2年半ぶり、9枚目の挑戦状の中身とは?

（初出『Groovin'』2000年9月25日号）

　衝撃的なデビューから何年が経ったのだろう。それでもマドンナが常に時代をリードするようなモード界やショウビズ界からリスペクトを受け、若者達リスナーの支持を受けるのは、アーティストとして常に挑戦し、トンガり続けているからだ。どれほど偉大なポップ・スターになろうとも、過去の栄光に寄りかかることなく前進する。まず自分がチャレンジしてみせる事でボトムアップを促すというシーンへの積極的・献身的な関わり方、音楽への取り組む姿勢に頼もしさを感じずにはいられないのだ。しかもマドンナの場合、その全ての作品が商業的にも大成功をおさめているという、奇跡的な事実も忘れてはならない。天性の才能と言えばそれまでだが、個人的にこれは作為的な戦略であり、もっと理論的に説明すると「流行とのスタンスのとり方の絶妙さ」であると思っている。マドンナの曲はいつも世間の流行より半歩進んだ所にあるか、半歩遅れた所（ココが重要 !）にあり、この自在なポジション移動こそが "スーパースター" たる所以であるのかもしれない。
　そんなマドンナの最新作『MUSIC』が完成した。今度のマドンナは久しぶりに半歩進んだ所にいる。そして20世紀最後を飾る今回のアルバムでの新たな挑戦（テーマ）は、ズバリ「音」（バック・トラック）だ。昨年もグラミー賞を当たり前のように受賞し、ここ数年サウンド面のパートナーであるウィリアム・オービットはサイドに下がり、今回タッグを組んだのはフランス人のユーロ・エレクトロ・シーンの第一人者：ミルウェイズなる人物。このミルウェイズの繰り出す個性溢れる攻撃的なリズム・パターンに、マドンナ・リスナーはまたしてもショックを受けるだろう。そして度肝を抜く鮮烈なビート、斬新な音処理の数々、容赦無く展開される変則的リズムとユーロ特有のなまめかしいサウンドが混在する彼独特の耽美的な音の世界にやがて覚醒される…。HOUSEサウンドに傾倒し、『エロティカ』を発表した時のアーティスト"MADONNA"は健在だ。結果、マドンナ史上最も難易度の高いアルバムとなったのではあるが、大ヒット・カヴァー「AMERICAN PIE」や、難解と言えどやはりキャッチーな先行シングル「MUSIC」など、未知の世界への気軽な間口も完備されている。「またウマいことヤッタね。21世紀も頼むよ。」

Text by 中澤雄二（静岡イトーヨーカドー店）