山崎まさよし

"たった一人のライヴ・パフォーマンス"
彼の音楽の原点ともいえる弾き語りライヴによるベスト・オブ・ベスト。
日本の音楽史に残るであろうライヴの名盤が完成。

（初出『Groovin'』2000年9月25日号）

　「ライヴ」 って自ら観て耳で聴いて感じるモノだよね。それを映像をOFFにして耳だけで感じてもつまらない。音楽はあくまでオリジナルで聴きたいし、何より、なんで聴衆の歓声を聴かなきゃいけないんだ?と、僕はライヴ盤に対して非常にネガティヴだったのですよ、昔は。でも、何枚ものいわゆる名盤と呼ばれるライヴ盤を聴くうちにわかってきたんだよねぇ、ライヴ盤の良さを。まず何よりも、オリジナル・アルバムでは聴けないアレンジが聴けること。また、逆にライヴでは再現が難しそうな音をスタジオ同然のクオリティでサウンドが再現された時の感動。あと、カヴァー曲などライヴでしか聴けない曲もあったりするのも魅力の1つかな。そして、スタジオの音よりもライヴの方がよりグルーヴィーで、あきらかにライヴのために作られた曲を聴けた時など。もしかして、今まで良いライヴ盤に出会っていなかったっていうだけで苦手意識を持っていただけだったのかも。
　なぜこのような話をしたかといえば答えは簡単、本作がライヴ・アルバムだから。この山崎まさよしの初のライヴ・アルバムは、1999年11月から2000年3月まで全国55ヶ所で行われた、山崎まさよし弾き語りツアー"ONE KNIGHT STAND TOUR 1999〜2000"からのベスト・テイクを収録したモノ。通常盤は、ライヴをほぼセットリストに沿って再現し、デビューから現在までの5年間のヒット曲の数々が収められた2枚組。初回限定盤は、この2枚組に一部の会場のみで演奏された曲や、カヴァー曲などを収録した1枚をプラスした3枚組。それに「明日の風」の自室での一発録音ヴァージョンのシングルが付いている。
　今回のツアーは、弾き語りツアーというだけあって、アコースティック・ギターとブルース・ハープのみでほとんどが演奏されている。彼のベースともなっているのが、ブルースなのは言わずもがなだが、「Fat Mama」「カルテ」「パンを焼く」あたりのメチャメチャファンキーなギターのカッティングには、アドレナリンが出まくりで腰砕け状態。そして、「ある朝の写真」「やわらかい月」「Passage」などのバラードは、グッと胸にくる切なさや、やさしさが込められ奏でられる。このギターの静と動の使い分け、そして声質が彼の最大の魅力だと思う。
　あと、ライヴならではの会場との一体感。それが「セロリ」では一番良い形で収録されている。観客のハンド・クラップがパーカッションとなって彼の歌、そしてギターとの三位一体の絶妙なサウンドを生み出している。（このアルバムでの一番の聴きどころかな。）また、初回限定盤のDisc3のロバート・ジョンソンのカヴァー「CROSS ROADS」にも注目、といったところ。
　本作は、このボリュームで弾き語りのライヴ盤にもかかわらず、一気に聴くことができる。もちろん、そこにはベスト的な選曲ということもあるかもしれない。しかし、それ以上に彼のライヴに対する拘りや、彼の素の魅力が最大限に詰まっていて、それが魔法のようにライヴの世界に引き込むのではないだろうか。また、時々見え隠れする彼らしいユーモアもいい感じ。ギター1本での弾き語り、アンプラグドという言葉では括れない彼流の最大のパフォーマンス。今作が日本の音楽史に残るライヴ・アルバムの名盤であることは間違いない。ライヴの素晴らしさを皆さんが知る為にまたとない1枚になるハズだ!!

Text by 常盤安信（秦野店）