安室奈美恵

SPECIAL SELECTION

安室奈美恵

安室奈美恵のオリジナル・アルバムが遂に完成。
シンガーとしての新たな魅力が加わった今作は、彼女のヴォーカルとバック・トラックが生み出す
グルーヴ感をじっくりと堪能できる、よりアーティスティックな仕上がり。

(初出『Groovin'』2000年12月25日号)

安室奈美恵-A.jpg 安室奈美恵が着々と変貌をとげている!もちろん彼女に対する世間の注目度は依然として高いし、特に若い世代を中心に大きな影響力のあるアーティストであることに変わりはない。しかし、いちシンガーとしての円熟度が、ここに来て大きく増しているような気がしてしょうがないのだ。
 思えば、歌う事が大好きな少女から日本のトップ・アーティストへ、そしてプライベートでは結婚、出産と、わずか数年の間に彼女にはいくつもの大きな転機が訪れ、それにともなう状況の変化があった。もしかしたら、普通の人にとっては何十年分にも匹敵するような経験を、彼女はこの数年間でしてしまったのかもしれない。そんな、まるでタイムワープしてしまったかのように時間をくぐり抜けた現在、私が彼女の歌から新たに感じるのは"豊かさや包容力を伴った強さ"なのである。地上に噴出した熱いマグマが、時を経て、やがては母なる大地を形作るように、彼女の歌に対する情熱や表現方法が楽曲をひたすら引っ張っていた存在から、楽曲を大きく包み込むような存在に変わりつつあるのではないだろうか?
 私にそう感じさせた1曲が「NEVER END」だった。九州・沖縄サミットのイメージ・ソングとして制作されたこの曲を、彼女は各国首脳の前で堂々と歌い上げた。故郷の代表として、若者の代表として、そして日本のシンガーの代表として申し分のないパフォーマンスであったと思う。何よりも、この曲に込められた深いノスタルジーを決して負のパワーにしない、包み込むような強さがあった。それどころか、彼女の歌声の隙間からは未来への希望だとか、明日への勇気だとかさえ感じとれるのだ。極端な話、5年前の彼女が歌えば、全く別の曲になっていたかもしれない。現在の安室奈美恵だからこそ、「NEVER END」は大きな包容力を持って私達のところまで届いたのだろう。
 また、それに続くシングル「PLEASE SMILE AGAIN」は、彼女の高音域の伸びやかなヴォーカルと、緻密に計算されたリズム・アレンジのバック・トラックとの対比がなんともクールな印象をあたえる好楽曲となった。まるで雑踏の中を颯爽と風を切って歩いていくような"潔さ"が感じられるこの曲にも、そこはかとなく漂っているのはやはり"包容力のある強さ"だった。
 そして、いよいよ発売される今作『break the rules』は、そんな彼女のヴォーカルがアルバム全体を引っ張っていることに間違いはないのだが、あからさまに歌中心といった作りではなく、きちんとヴォーカルが楽曲の中に溶け合っている感じ。さらにバック・トラックも含めて、かなりグルーヴを意識した仕上がりとなっている。そのせいか、聴いていても肩に力が入らない。グルーヴに身をまかせて、自然体で聴くことの出来る作品だと思う。ややハスキーな声質とクールなアレンジの相性も抜群に気持ちよく、ダンスを得意とする彼女ならではのツボを得たリズムの取り方も、心地よいグルーヴに確実に貢献している。カラオケで熱唱したいという人も多いだろうが、まずはじっくりと聴いて、体を揺らしてみて欲しい。その歌声に身を委ねてみれば、ヴォーカリストとしての新たな彼女の姿を見つけることができるだろう。
 シンガー安室奈美恵のさらなる可能性を感じさせる今作。しかし、このアルバムもこれから続いていく彼女の長いアーティスト活動の1ページにすぎないのかもしれない。安室奈美恵は、次は何を手に入れ、一体どんな変貌を遂げるのだろうか?

Text by 鮎川夕子(編輯部)

『break the rules』
安室奈美恵-J.jpg




CD
avex trax
AVCD-11876
¥2,913(税抜)
発売中

ヒット・シングル「NEVER END」「PLEASE SMILE AGAIN」を収録した安室奈美恵のニュー・アルバム。よりグルーヴ感を増して表現力豊かになったヴォーカルと、バック・トラックのクールなアレンジに注目して欲しい。彼女のいい感じの余裕が垣間見れる会心作。

【安室奈美恵 Official Website】http://www.avexnet.or.jp/amuro/index.html

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