杏里

SPECIAL SELECTION

杏里

22年間の活動の集大成ともいえるコンプリート・ベスト
『ANRI the BEST』をリリースする杏里。
〜輝いていた夏からの贈り物は、いつまでも色褪せないあの曲達でした。〜

(初出『Groovin'』2000年5月25日号)

杏里-A.jpg デビュー・シングル「オリビアを聴きながら」からヒット・シングル「夏の月」まで、杏里の集大成とも言えるコンプリート・ベスト『ANRI the BEST』がリリースされる。22年間に発表されたヒット曲の中から厳選された33曲をCD2枚に収録、という充実した内容になった。しかも、その選曲についてはファンクラブ・アンケート、カラオケ・チャートのデータ、ラジオ・オンエア・データ、コンサートでのアンケート、そして売り上げデータ等、実に客観的な物差しが使われた。アーティストの思い入れだとか、意向がふんだんに入るベスト・アルバムも作品としては面白いだろう。しかし、何よりもファンのためだけを考えたと思われるこういった選曲基準によって構成された本作には、ファン思いの彼女らしいありったけの感謝の気持ちが込められているようで、「いえいえ、こちらこそありがとう。」と、なんだか心のこもったプレゼントをされたように嬉しくなってしまうのだ。
 そして、懐かしい曲が詰まったこのアルバムを聴いているうちに、浦島太郎状態というか、時間の流れが歪んでしまったようなとても不思議な感覚に陥った。例えば「オリビアを聴きながら」や「悲しみがとまらない」は今も多くの人に愛されているし、カラオケの普及によって歌い継がれる名曲である。もはやスタンダードの域に達していると言っても過言ではないだろう。しかし、これらの曲が生まれてから軽く15年以上の月日が流れているにも関わらず、楽曲自体全く色褪せることがない。逆にあの頃は幼すぎて理解出来なかった詩の世界がやっとわかるようになってきた、そんな世代にとっては新鮮にも思えるくらいだ。
 また、杏里の歌にはいつも"スタイリッシュ"なイメージがあるのだが、この"スタイリッシュ"がくせ者で、例えば洋服に代表されるように、月日が経ってしまうと当時は間違いなく"スタイリッシュ"だったものがそうではなくなってくる、という悲劇がおこりがちだ。しかし、このアルバムを聴くと理解してもらえると思うのだが、杏里の曲にはそんな心配はいらないようだ。きっと、彼女しか持ち得ない"不変のスタイリッシュ感"があるんだろう。
 さらに特筆すべきは、本作の収録曲はすべて貴重なオリジナル・テイクを使用、という点である。最近のベスト・アルバムは、リミックスはもちろん新録といった形で楽曲をリメイクすることが多い。それはそれで興味深い部分もあるのだが、ベスト・アルバムをよみがえる当時の思い出と共に楽しみたいという人間にとっては、全てが当時のままのオリジナル・テイクが収録されてこそ、真のベストという事になるだろう。
 そして、誰もが知っている彼女のヒット・シングルの数々に加えて、アルバムに収録されていた名曲もしっかりと収録。「なんだ、あの曲入ってないんだ」と肩すかしをくらう事もないはず。また、杏里自身の手による曲がほとんどではあるのだが、それ以外の作家陣も多様で興味深い。尾崎亜美はもちろんのこと、角松敏生、小林武史なんていう名前もある。こうしてみると、この作品は当時の思い出と共に楽しむだけではもったいないような気がしてきた。J-POPという言葉が無かったころの日本の音楽シーンを引っ張ってきた杏里の音楽は、現代の10代の若者にも自信を持ってお薦めできるし、きっと何かを感じてもらえると思っている。そんな幅広い世代に聴いてもらいたい記念すべき作品になった。

Text by 鮎川夕子(編集部)

『ANRI the BEST』
杏里-J.jpg




CD2枚組
フォーライフ
FLCF-3791
¥3,429(税抜)
発売中

デビュー以来22年間に発表された沢山のヒット曲の中から厳選された33曲をCD2枚組に収録した、まさにコンプリート・ベスト!なアルバム。しかも、すべて貴重なオリジナル・テイクを収録というファンには涙モノのサウンドは、当時のままの杏里を楽しめるようになっている。

【ANRI[杏里]公式サイト|anri-box.com】http://anribox.com/

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