MIHO

ARTIST PICK UP

MIHO

「Life」で鮮烈なデビューを飾ったMIHOが2ndシングルをリリースする。
類い希なセンスを見せつける楽曲と、
包み込むようなMIHOのヴォーカルが私達に伝えるものは?

(初出『Groovin'』2000年5月25日号)

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 世の中にはずいぶんと癒されたがっている人間がいるらしい。"心も体も疲労困憊"そんな人間が実際のところどれだけの数いるのかなんて知る由もないが、"癒し"は現代のキーワードとなり、消費社会の確実な一部分を占めようとしている。ヒーリングなんていう言葉がもてはやされ、最初は明らかに隙間産業であった癒し系グッズなんていう物が、いまやヒット商品になる事も多い。某動物キャラクターのグッズを中年のサラリーマンが買い求める、という現象にはいささか閉口したが、そこまで現代人の癒されたい願望は切実なんだろう。じゃあ、癒されるのはどんな時で、癒されたいって一体どうされたいんだろう?
 少なくとも私は"優しい気持ち"や"優しさを感じる物"に触れた時に癒されることが多い。だけど、世の中の優しさの絶対量がどんどん減少している気がする。ギスギスしているのは減る一方にある一定量の優しさを奪い合っているからじゃないんだろうか?自分が優しくなろうともせず、他人やモノに優しさをねだっていないだろうか?
 私はMIHOの曲を聴くまで、HIP-HOPテイストの曲は温もりだとか優しさを表現しにくいものだと思っていた。ラップやそのビート感は強いメッセージや、社会や物事を嘲弄するための武器のようなものだと思っていた。それをくつがえされたのが前作「LIFE」であり、MIHOのヴォーカルだった。本作に収録されている「OVER」「ESPERANZA」でも、前作で感じた優しさに触れる事が出来たのはもちろんだが、楽曲の有無を言わせぬ素晴らしさも手伝って、20世紀最後の名曲の誕生か?などと浮き足だってしまった。
 「OVER」は現代の日本のレゲエ・シーンを代表するアーティストであるBOY-KENがMCとして参加。その印象的な声質は意外にも、ソウルフルなコーラスやMIHOの慈愛に満ちた歌声にスパイスの役割を果たしながら調和している。Steady&Co.によるレゲエの解釈ともいえるトラックにも、彼らが多くのコラボレートによって得てきた、最新でありながらも流行に捕らわれない独自のスタイルが表れている。さらに、強くなければ優しくなれないとばかりに「OVER」の詞は「越えていける強さ」に溢れていた。
 両A面となるもう1曲「ESPERANZA」はスペイン語で「希望」を意味する。降谷建志、スケボーキングのSHIGEO、CO-KEYの3人がラップをまわしていくというスタイルのHIP-HOP色の強い作品である。この3人の「ESPERANZA」をキーワードに展開されるラップだけでも聴きごたえ充分なクオリティなのだが、そこにMIHOのヴォーカルが加わる事によって生まれた"優しさ"や"温もり"もダイレクトに感じられる。常に変化していく音楽の表現方法と、普遍的に私たちが求め続ける"優しさ"という感情の同居。もしかしたら、私たちがずっと待ち続けていたのはこんな音楽だったのかもしれない。
 きっとMIHOというアーティストはたくさんの愛情を持っていて、そこから湧き出る優しさや温もりを歌という伝達方法で私たちに届けてくれているに違いない。そんなMIHOの歌声を"癒し系"なんていうお手軽な言葉で表現するのはよした方がいいだろう。でも、ギリギリの毎日から逃げ出したくなったとき、ふと立ち止まってしまったとき、MIHOの作品に触れてみることをおすすめする。

Text by 鮎川夕子(編集部)

『OVER/ESPERANZA』
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Maxi Single
ポニーキャニオン
PCCA-01442
¥1,200(税抜)
6月7日発売

MIHOの2ndシングルは両A面。「OVER」はBOY-KENをMCに迎えた歌モノ色の強い作品。一方「ESPERANZA」は降谷建志、スケボーキングのSHIGEO、CO-KEYのラップがMIHOの歌に絡むHIP-HOP色の強い楽曲。


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