藤 真利子

ARTIST PICK UP

藤 真利子

女優として活躍中の藤真利子が、80年代前半に発表した貴重音源がCD化。
豪華ミュージシャン参加で、独特の世界を表現した名盤の数々。
フレンチ・ポップス・テイスト溢れる、カヴァー作品にも注目!

(初出『Groovin'』2000年5月25日号)

 デビュー以来、女優として舞台から映画、テレビまで幅広く活躍中の藤真利子。しかし彼女にはもう1つ、シンガーとしての顔がある。最近そのことを知る人が少ないのは残念なことだが、ここに来て彼女が過去テイチクから発売したアルバムがリイシューされ、再びシンガーとしての側面にスポットが当たりつつある。しかもこれらの作品では作詞、作曲、アレンジなどで錚々たるメンバーが集められており、単に女優がアルバムを出した、というのとは一線を画する強烈な内容なのだ。彼女のシンガーや作詞家としての表現力もさることながら、こうした裏方の作家やミュージシャンにも注目して、80年代前半のサウンドを楽しんで頂けたらと思う。

■『狂躁曲』
 このCDは、82年にテイチク/コンチネンタル・レーベルからリリースされた3rdアルバム『狂躁曲』の音源に、ボーナス・トラック6曲をプラスした構成になっている。藤真利子は79年にキングから『シ・ナ・リ・オ』でシンガーとしてもデビュー、その後テイチクに移籍し81年に『浪漫幻夢(Romantic Game)/藤真利子1981』をリリース。ここでは当時のニューミュージック路線での音づくりが行われ、南佳孝、松任谷由実(ユーミンの名盤『サーフ&スノウ』収録曲のカヴァーである「雪だより」「シーズンオフの心には」もボーナス・トラックとして収録)、松任谷正隆、岸田智史らが楽曲提供をしている。そしてここからシングル・カットされたのが、ボーナス・トラックの「裸足の伯爵夫人」「Gemini Vs Capricorn」(共に南佳孝作曲)である。またこのアルバムでは、藤真利子自身も"微美杏里"のペン・ネームで作詞を手がけている。
 この時期、藤真利子はムーンライダーズのアルバム『マニア・マニエラ』にゲスト参加。これが元で彼女の次作のプロデュースを、鈴木慶一が担当する事になり完成したのが、この『狂躁曲』だった。作詞家では寺山修司、赤江瀑ら文壇の個性派が作品提供する一方、沢田研二やライダーズ人脈の岡田徹、白井良明に加え、YMO繋がりの高橋幸宏、大村憲司も参加、また演奏はムーンライダーズが担当し、ニュー・ウェイヴ系のサウンドによる異色作が完成した。なおボーナス・トラックの「鬼狂言」は、シングル・カットされた「花がたみ」のB面曲。寺山修司の独特な幽玄の世界がここでも全開。ムーンライダーズのファンにも、本当に嬉しい再発だ。なおもう1曲のボーナス・トラック「危険な眠り」は、83年のアルバム『アブラカダブラ』発売後にシングル・リリースされた曲で、何と松本隆−細野晴臣コンビによる作品。テクノ歌謡的な、素晴らしい1曲だ。

■『アブラカダブラ+ガラスの植物園』
 このCDは83年の『アブラカダブラ』と84年の『ガラスの植物園』の2枚のアルバムを、完全収録したもの。最近でこそピチカート・ファイヴおよび小西康陽やカヒミ・カリィ、トラットリア系のサウンド、さらにはジェーン・バーキンやフランス・ギャル、ミッシェル・ポルナレフなどの再評価によって、フレンチ・ポップスは若い世代の間でも普通に聴かれるようになったが、80年代前半にこういったサウンドをいち早く取り入れ、しかもファッションまで巻き込んだ形で実践したのが藤真利子だった。『アブラカダブラ』では全曲のアレンジをムーンライダーズの白井良明が担当、また作詞はすべて微美杏里。さらに作曲家陣として沢田研二、坂本龍一、細野晴臣、鈴木慶一、松尾一彦(オフコース)が迎えられ、フレンチ・ポップスのエッセンスをふんだんに使いつつ、GSやオリエンタルな雰囲気溢れる曲が並ぶ独特の作品となった。またセルジュ・ゲンスブール作で、フランス・ギャルが65年に飛ばしたヒット曲のカヴァーである「うわきなパラダイス急行」が収録されている点も見逃せない。
 また84年の『ガラスの植物園』でもその路線はさらに拡大し継承され、全曲がゲンスブールなどのフレンチ・ポップス作品のカヴァーで占められた。このアルバムでも作詞はすべて微美杏里が担当、また全曲のアレンジとプロデュースは松任谷正隆という布陣が敷かれ、フランス・ギャルでお馴染みの「涙のシャンソン人形」(昔カジヒデキ君が在籍していた、ブリッジのカヴァーでも知られるあの曲です)を「アブナイ彼」のタイトルでカヴァーするなど、作詞家としての藤真利子の魅力も満載された作品となった。

 このように藤真利子の作品には、既にその後J-POPSの主流となる洋学的志向が実践されていたばかりではなく、高度な演奏やアレンジ手法、巧みな作家の組み合わせなどとも相まって、完成度の高い作品に仕上がっていた。長らく入手困難だった音源だけに、この再発は嬉しいところだ。女優とはまた違った彼女の魅力を、改めて感じてみてはいかがだろうか?

Text by 土橋一夫(編集部)

『狂躁曲』
藤真利子-1J.jpg




CD
テイチクエンタテインメント
TECN-25634
¥2,400(税抜)
発売中

82年の3rdアルバムにシングル曲など貴重音源をプラス。南佳孝、岡田徹、白井良明、高橋幸宏、大村憲司、松本隆-細野晴臣など、作家陣も豪華。ユーミンのカヴァー「雪だより」「シーズンオフの心には」も収録。ムーンライダーズが全面バックアップしたニュー・ウェイヴ色溢れる力作。

『アブラカダブラ+ガラスの植物園』
藤真利子-2J.jpg




CD
テイチクエンタテインメント
TECN-25635
¥2,400(税抜)
発売中

83年の4thと84年の5thアルバムをカップリング。ムーンライダーズと松任谷正隆が全面バックアップ、作曲家陣では沢田研二、坂本龍一、細野晴臣、鈴木慶一、松尾一彦(オフコース)らが参加。さらにゲンスブールなどのフレンチ・ポップス作品のカヴァーも多数収録した、お洒落な1枚。


inserted by FC2 system