MY BEST CHOICE!

　学生時代ずっと中野に住んでいた。北口駅横にどうでもいいような管理をされている公園があって、そこにでっかいイチョウの木が生えていた。天気の良い日に木の下で楽器の練習をしたり、人に追われてその木に登り、私の命を助けてくれたりと何かとお世話になった木だった。卒業する頃、木のまわりに柵ができ、近づくことが出来なくなった。
　卒業後何年かたって訪れると、そこは自転車の駐輪場になっていて、サンプラザとタメはってたイチョウの木は無くなっていた。きっと嫌銀杏家の仕業に違いない。
　別に私はエコロジストでもないし、ノスタルジーにひたりっぱなしの人種とも違う。ただ、群れるわけではなく、自ら望んだかどうかは知らないがその木は明らかにそこに存在していた、ということを伝えたいだけだ。
　今年になってすぐ、元ボ・ガンボスのどんとが死んだ時、ふとその木の事を思い出した。10年前、大好きだったじゃがたらのアケミが死んだ時もその木の事を考えてしまった。好きなミュージシャンがいなくなっても私の日常には何の変わりもない。でも、明らかになにかひとつなくなった感じ、そして得た物が残る。音楽は大切だけど一番大事な物ではない、と思う。
　「そしたらどないせぇいうんじゃ、ごたごたぬかさんとおまえはおまえのむらのおどりをおどるだけちゃうんか！」
　今年のフジロック、ついにというかやっとというか、「1本のでかいイチョウ」がバンドの形をかりて現れる。中川敬、ソウル・フラワー・ユニオン。休みをとって踊りに行こう！待ってろよ、「銀杏嫌い」め。


＊なお次回は槙田和弘氏（すみや本店 ソフト館）が登場します。お楽しみに。