小島麻由美

ARTIST PICK UP

小島麻由美

「さよならセシル」以降、アルバムとしては
ライヴ盤、ベスト盤のリリースのみだった小島麻由美。
ついに新たな小島ワールドが、私たちの手元に届く時がやってきた!

(初出『Groovin'』2001年8月25日号)

 「アルバム作った♪」…私の目の前に立つ裸足の少女は、少しはにかみながらも笑顔でそう言った。新宿は歌舞伎町、リキッドルームでの小島麻由美は、実に3年ぶりのアルバムを作り終えた悦びをその表情に浮かべながらステージに立っているように見えた。
 そう、「3年ぶり」なのだ。彼女が前作の『さよならセシル』でセシルに別れを告げてから、そんなにも月日は流れていたのか、と今この原稿を書きながら改めて思う。人間、3年もあれば、けっこう変わるものである。新たな人との出逢いがあったり、転職したり、1つの恋が終わったり、好みの音楽が変わったり。当然小島サウンドにも、その持ち味が変わることはなくとも、目に見える(音楽だから"耳で聴こえる"?)変化が生じていた。
 小島サウンドの根底には、かつての日本の歌謡曲の遺伝子を感じさせる。実は、今回この"歌謡曲"という言葉を文中に入れることを少し躊躇った。彼女の曲をそういったもののリヴァイヴァルと断定したくないからだ。しかし敢えて使おう。私は、自分が60年代の歌謡曲好きから彼女の音楽を聴き始めたことを否定できない。
 95年夏にシングル『結婚相談所』でデビュー。ややメランコリックなメロディー、昭和の懐メロを彷彿とさせるその楽曲は、ちょうど小室ファミリー全盛期だった当時としてはやや通好みな音だった。しかしその後、97年にリリースされたシングル『はつ恋』がポテトチップスのCMソングに選ばれ、さらに99年にはNHK「みんなのうた」のために作られた曲『ふうせん』を発表。だんだんと小島サウンドはお茶の間に進出してきた。そしてつい最近まで宅配ピザのCMソングとして、最新シングル『わいわいわい』が起用されていたのは皆様ご承知の通り。
 こうして彼女のサウンドは、少しずつではあるが、確実に市民権を得ようとしている。例えばエゴ・ラッピンや椎名林檎といった、60年代歌謡曲を下敷きにしたような匂いを持つアーティストが幅広いリスナーの支持を受けるようになった今、彼女がアルバムをリリースするのは非常にタイミングが良いように思われる。しかも、今作のクオリティーの高さと、音の迫力は、様々な年齢層のリスナーを納得させることができるだろう。以前までの麻由美嬢を表現するなら、ピーナッツ(スヌーピーが主人公の4コマ漫画)のシュローダーのようだった。おもちゃのピアノを巧みに操り、大人顔負けの演奏をしてしまう子供…。そんなかわいらしさがあった。しかし今やそのシュローダーは大人になり、ホンモノの楽器を手にし、ダイナミックな才能をさらに開花させる。かつての日活映画のサウンド・トラックから抜け出てきたような、うなるウッド・ベース、乾いた音を奏でるドラムス、響き渡るフルート、分厚いホーン隊、その中で光るピアノの音。そして艶かしい彼女の歌声は、楽器の音と見事に絡み合う。スロー・テンポな曲に関しても、彼女のだらしない歌声はますます色気を放ち、以前よりも少し大人びた歌詞を乗せ、我々の耳の中で溶けていく…。
 やはりセシルは少女からオンナへと成長を遂げていた。"女性である"という武器をこんなにも巧く作品に反映させることができる歌手は、今、彼女しかいないかもしれない。

Text by 渡辺麻美(玉川高島屋店)

『My name is blue』
小島麻由美-J.jpg




CD
ポニーキャニオン
PCCA-01558
¥3,000(税抜)
9月5日発売

オリジナル・アルバムとしては実に3年ぶりの小島麻由美の新作、ついに完成。まだ小島サウンドを知らない人も、既にその味を知っている人も、今作の彼女の音には衝撃を受けるだろう(当然、良い意味で)。先行シングル「わいわいわい」「甘い恋」を含む全11曲。

【小島麻由美 Official WEB Site】http://www.kojimamayumi.com/

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