MY BEST CHOICE!

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第19回 
ニーニョ・ハラーダ(原田正直/ソフト営業部中部第2ブロック長)

(初出『Groovin'』2001年8月25日号)

 近年はバルカン半島のロマ(ジプシー)音楽が注目されているようですが、今回はこの4月に発売されました、スペイン〜アンダルシアのロマ(ヒターノ)=フラメンコを描いた映画「ベンゴ」のサントラを取り上げてみました。監督はトニー・ガトリフ(彼自身もロマ)。これまでにも「ラッチョ・ドローム」「ガッジョ・ディーロ」など広くヨーロッパのロマ文化を題材にした映画を製作しています。主演は当代のトップ・フラメンコ・ダンサーであるアントニオ・カナーレス。しかし役の中では踊る場面は一切なし。渋い役を見事に演じきっています。ベンゴとは復讐のことであり、ヒターノ社会におけるファミリアの強い絆、哀しい定め、血の掟がテーマとなってストーリーが展開していきます。そして随所にフラメンコが登場するのです。
 さて収録曲ですが、全曲フラメンコではなく、アラブ音楽やアラブ楽器とのジョイントも入っており、それ故フラメンコ・ファンには多少違和感があるかもしれません。が、もともとアラブ音楽もフラメンコ形成の1つの要素であり、それが良さとなっていますので、まずは聴いてみてください。また、ポップス・ファンにも十分楽しめる内容となっています。オープニングはトマティートの弾くブレリア。スピード感、ノリの良さ、テクニックともにさすが。ヒターノはブレリアが大好き。今作には他にもブレリアが収録されているので聴き較べてみるのもオモシロイかも。またジプシー・キングスですっかりお馴染みになったリズム=ルンバ・フラメンコも2曲入っています。ジプキンもデビュー当初はこの様に荒削りな良さがありました。同じくラテン系フラメンコの哀愁たっぷりのミロンガも入っています。そして、これぞフラメンコというシギリージャを歌うのは1934年へレス生まれのラ・パケーラ。ヒターノの魂=カンテホンド(奥深いヒターノの叫び)をたっぷり聴かせてくれます。フラメンコ・ファンの中にはこの古典的なスタイルのシギリージャにとりつかれるファンも多いようです。また、突然ロス・プリモスもまっ青という「ラブユー東京」が入りびっくりしますが、これはご愛敬。やっぱりフラメンコはダミ声が渋くてイイ。それこそ浪曲師が歌えば最高のカンテ・フラメンコができるのではないかと思ってしまいます。そして最後はこの映画のテーマ曲「ナシ・エン・アラモ」。これはフラメンコというよりポップス。ゆったりとしたタンゴ・フラメンコのリズムに乗って歌っているのは、レメディオス・シルバ・ピサという17歳の少女(とても17歳とは思えないが)。"私はアラモの生まれ、私には居るべき場所がない、懐かしい風景も、まして故郷などありはしない"と郷愁を込めて切々と歌われます。エンディングに流れるこの曲が実にイイ。この曲だけでもアルバムを手にする価値がある、という事で「ベンゴ」の紹介でした。
 今後「ベンゴ」の地方上映は自主上映となりそうです。ちなみに静岡ではサールナートホールにて今秋上映(10/15〜17)が予定されています。

*なお次回は鈴木賢一氏(すみや三島店)が登場します。お楽しみに。

オリジナル・サウンドトラック
『ベンゴ』
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CD
ワーナーミュージック・ジャパン
WPCR-10932
¥2,400(税抜)
発売中

残暑の厳しい折、気分を変えてフラメンコはいかがでしょうか。とかくフラメンコというと敬遠されがちですが、これはポップス・ファンにも聴きやすい内容となっております。ひょっとして新しい出会いが生まれるかもしれません。夏バテ気味のあなた、ノスタルジックな気分に浸りたいあなたにオススメの1枚です。

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