ARTIST PICK UP
ビョーク
世界中の音楽ファンの注目を集めるディーヴァ(歌姫)としてだけでなく、
アクトレスとしても頂点を極めたビョークの、
待ちに待った新作がリリース!!
(初出『Groovin'』2001年8月25日号)
思えばビョークとの最初の出会いはずいぶん前のことになる。1988年にファースト・アルバム『ライフ・イズ・トゥー・グッド』を発売後、世界的に成功したロック・バンド"シュガーキューブス"のヴォーカリストとしての頃だ。アイスランドのロック・バンドという風変わりな肩書きもそうであるが、なんといっても私を含めたロック・ファンの耳を引き付けて離さなかったのは、なんともエキセントリックなサウンドに一歩も引けをとらない、ビョークの圧倒的な歌声にあった。"表現豊かな"という形容詞はよく使われるが、ビョークの場合、自らの感情そのものが体の中からあふれ出てしまう、そんな感じだったのをよく覚えている。ただ、あまりに圧倒的にストレートなその声は、アルバム1枚通して聴くにはしんどかった…そんな記憶も一緒にあった。
結局、アルバム3枚でシュガーキューブスは解散してしまうが、その後ソロに転向してからのビョークは格段の進化をみせる。1993年に発表されたファースト・ソロ・アルバムの『デビュー』はSOUL ⅡSOULのネリー・フーパーをプロデューサーに迎え、UKのダンス・シーンを視野に入れた作品であったが、自分の特徴をふまえて、よく咀嚼した音にはアーティストとしての"深み"が感じられた。さらに1995年に発売された『ポスト』では、前述のネリーのほかに、ハウイーB、トリッキーも加わり、遊び心に溢れ、ヴァラエティーに富んだそのアルバムは300万枚以上売れ、ソロ・アーティストとしてのキャリアでも大成功を収めた。1996年のリミックス・アルバム『テレグラム』をはさんで、アルバム・カヴァーにはみんな度肝を抜かれた1997年のサード・アルバム『ホモジェニック』は、これまでのビョークの歩んできたキャリアの集大成とも言える完璧な作品で、翌年に行われたFUJI ROCK FESではヘッド・ライナーをつとめた。そのステージがはじめての"生ビョーク"だったのだが、彼女が登場した瞬間、会場の雰囲気ががらりと荘厳なものに変わり、まるで異世界を漂うような浮遊感とともにあっという間に時が過ぎてしまった、そんな今までに経験したことのないライヴだったことが思い出される。
その後の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」出演とカンヌ映画祭最優秀女優賞受賞、『セルマソングス』の大ヒットは記憶に新しいところであるが、オリジナル・アルバムの発売を待ち望むファンにようやく届けられた今作『ヴェスパタイン』。『セルマソングス』にある広大なスケール感、ファンタジックな音世界を踏襲した、現在のビョークを忠実に表現した傑作だ。どんなサウンドにも対応し、完全に自分の支配下に置いてしまう、あのビョークはさらに"進化"を遂げているようである。
最近我が家に子供が生まれたのだが、以前は半信半疑で聞いていた、"赤ちゃんは泣き声ですべてを表現する"というのはあながち間違いではなかったのだと感じている。どんな言葉よりも心に届く何かがあるのだろうが、ビョークの魅力を表現するとしたら、今はこう言うだろう。彼女の歌にも赤ん坊と同じように心に届く"叫び"があると。
Text by 作山和教(市原東五所店)
『ヴェスパタイン』
CD
ユニバーサル インターナショナル
UICP-9001
¥2,427(税抜)
発売中
「ダンサー・イン・ザ・ダーク」で女優としても大成功を収めたビョークのオリジナル・ニュー・アルバムが登場。先行で発売されたシングル「ヒドゥン・プレイス」はCDだけでなく、DVDシングルでもリリース。サウンド&ヴィジュアルで今のビョークを体感すべし。
【björk.com】http://bjork.com/