中島みゆき

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中島みゆき

通算29作目となるオリジナル・アルバム『心守歌(こころもりうた)』。
当代きってのストーリーテラー・中島みゆきが放つ11編の物語。
静かに包みこむように、あなたの心の奥に優しく歌いかけます。

(初出『Groovin'』2001年9月25日号)

中島みゆき-A.jpg 中島みゆきのオリジナル・アルバム通算29作目となる『心守歌(こころもりうた)』が完成した。約10年を費やし確立された、東京とロサンゼルスでのレコーディング・スタイルを基盤に、新たな試みを加えながら完成させた今作『心守歌(こころもりうた)』には、「夜会VOL.11—ウィンター・ガーデン」で歌われた「ツンドラ・バード」「六花」を含む全11曲が収められている。そして今回も、全11曲のそれぞれに、11通りの物語が完成されており、中島みゆき独特の感性があますところなく表現されている。
 曲の始まりから、その曲のために用意された場面がくっきりと目に浮かび、その場面の中に入って一部始終を傍観してしまうような出来上がりだ。1曲目の「囁く雨」には、切り出された別れを目の前にして立ちつくす、どうにもできない女(じぶん)の姿に、まるで囁くように降り続く雨の冷たさを感じてしまうし、2曲目の「相席」には、何気ないきっかけで出会い、そして別れていく男女の恋愛の流れを見ることができる。ありふれた日常の中の一場面を大きくクローズアップしても、嘘っぽくならないのが彼女の歌の大きな魅力だろう。だから、彼女の曲に、歌に、詞(ことば)に耳を傾ける人がたくさんいるのだろう。そんな親近感を感じさせながらも、相変わらず、彼女独自の詞の世界は健在で、想像もつかないような喩えや表現がいたるところに出てくる。広辞苑では引くことのできない、「中島みゆき辞典」にのみ存在する言葉の数々。そして、アルバム・タイトル曲でもある「心守歌(こころもりうた)」は、淡々とした、歩く速さくらいのメロディーが、まるで心を静かに眠らせるように優しく、そして心を守るように強く響いてくる。時にありふれた日常の中で、時に遠く離れた場所で、自分自身を見つめて、問題にぶつかり葛藤しながらも、全てを受け入れることで前に進むことのできる大人の女性の強さが全曲を通して伝わってくる。きれい事では済まされない人間社会の現実を、彼女の音楽を通して改めて実感する。そして、アルバム・ラスト曲「LOVERS ONLY」が、すべての事実を肯定し、包み込むように響き渡る。
 一瞬にして聴く者をその世界に引きずりこむ彼女の表現力には、毎回驚かされる。「中島みゆき」という歴史が刻んできた年輪は、1つ作品を世に出すごとに、ますます大きく、深くなっていく。その存在の大きさは「アーティスト」「シンガー・ソングライター」「ミュージシャン」etc…といった括りに加える事のできないほどだ。アルバム、ビデオ、コンサート、夜会、ラジオ・パーソナリティ、TV・映画のテーマ・ソング、楽曲提供に出版と、幅広く活動を続ける彼女には、ジャンルや括り等は一切無用であり、むしろ彼女自身が「中島みゆき」というジャンルの中のただ1人の存在であると言っても過言ではないだろう。日本において、70年代、80年代、90年代と3つの世代(decade)で、チャート1位に輝いたアーティストは、 シングル・アルバムともに中島みゆき、ただ1人であるという事実が、すべてを物語っている。長くの間、コンスタントに作品を発表し続け、根強いファンを持ち続ける彼女にしか作り出せない世界の中に、改めて足を踏み入れ、包まれる心地よさを、この最新作で感じてほしい。

Text by 二宮万里(編集部)

『心守歌』 
中島みゆき-J.jpg




CD
ヤマハミュージックコミュニケーションズ
YCCW-00029
¥3,000(税抜)
発売中

中島みゆき最新アルバムは『心守歌(こころもりうた)』。タイトル通り、心を守ろうとする強い意志のようでもあり、心の深くにそっと歌いかけ、穏やかに眠らせるような子守歌のようにも聴くことができる。改めて、彼女の表現力と存在感の大きさを見せつけた名盤だ。

【中島みゆきオフィシャルサイト】http://www.miyuki.jp/

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