茂木ミユキ

ARTIST PICK UP

茂木ミユキ

理屈抜きに「心地いい」と感じる、魅力的な声。
そこには自分だけの空間を即座に創造してしまう、圧倒的な個性がある。
デビュー・シングルにして、傑作…ここに誕生。

(初出『Groovin'』2002年1月25日号)

 人間には意識と無意識という、2つの心の形態がある。意識的に行う事柄と、無意識のうちに行われる事象。結果的に終着点が同じだったとしても、その過程においては大きな違いが見られるものだ。例えばそれを音楽に置き換えてみると、こうなる。
 元々興味の無かった類のサウンドを、あなたはあるきっかけから好きになろうとする。恋人が好きな音楽を自分も理解しようとする、などということがよくあるだろう。元々興味の薄かったものを、「恋人が好きだから」という他の要因が加わったことで、自分も理解しよう、好きになろうと能動的に努力する訳だ。もしかしたらその音楽に対する興味というより、恋人への関心が「聴く」という作業を行わせるのかも知れない。そしてその努力の結果、その音楽が好きになったとしよう。
 しかし同じ音楽でも、元々何気なく自分の耳に飛び込んで来て、それ以来頭の片隅でその音楽の断片がループを繰り返し、挙げ句の果てにはその音楽が誰の何という曲なのか突き止めるために、様々な手段を講じて探し始める、という場合もある。そして遂にその曲の正体を突き止めたあなたは、改めてじっくりとその曲に耳を傾け、そこから色々なことを推測し始め、遂にはその音楽が好きでたまらなくなる。
 この2つの事例は「その音楽が好きになる」という最終結論は同じだが、それに至るまでの過程はかなり違う。そしてその中で注目して欲しいのが、後者の例の冒頭で挙げた「何気なく」ということ。実はこの「何気なく」という中には、重要な要因が隠されているのだ。能動的に敢えて好きになるより、何気なく好きになる事の方が、その「好きになる」ための原因は強力なのではないか?そこでその原因…例えばメロディの美しさ、アレンジの華やかさ、詞の世界観…といったことを色々考えてみるとき、僕の場合最も影響を受けるのは声質とその声の響きだ、ということに気付いた。特にTVやラジオなどから断片的に曲が流れてくる場合、当然詞の全容をそこから把握できる訳ではない。スポットだったら、メロディもサビなどほんの一部だ。アレンジも同様。そう考えると瞬間で好き嫌いが判断できるのは、声が大きな要因ということになりはしないだろうか?
 前置きが長くなったが、この茂木ミユキ(みゆ)というシンガーは、その声という面においては、天性のものを感じさせる。包み込むような大らかさと、時折見せる艶やかさ。広さと優しさと、穏やかさ。ある種の憂いと儚さも兼ね備えている。その声に触れるたび、僕は心の裏までもをまるで見透かされているかのような、不思議な気分になる。と同時に、小さな目の前の出来事や感情の起伏が、浄化され静まっていく不思議な感覚を抱くのだ。これは訓練してできるものとは、違う次元のもの。まさに彼女だけに与えられた、表現者としての才能だ。そしてデビュー・シングルとして選ばれた「洪水」は、松本隆が詞を手がける。松本隆独特の言葉選びの感覚は、みゆの声と重なり合う時、新たな世界の広がりを作り出す。さらに作曲者であるソルヴァイは、デンマークの女性シンガー・ソングライターで、みゆの声の魅力を理解しこの曲を書き下ろしたとのこと。美しく穏やかに流れるメロディ・ラインは、みゆの声質との相性もピッタリだ。なお当初、この曲は英語詞が付けられ「HOPE」というタイトルでインディーズでリリースされている。
 感情をそのまま歌にして、インパクトを与えるのも音楽の1つの手段。でも、そうじゃない方法論も存在する。表面的な感情から、心のもっと深いところへ…。みゆの歌声には、そんな心の奥底にまで浸透する不思議な力が満ち溢れている。そして少しずつ、彼女独特の「心地よさ」をいっぱいに敷き詰めてくれる。
 もし心を映し出す鏡があるとしたら、茂木ミユキの歌を聴いたあなたの心はどんな風に映るのだろうか?

Text by 土橋一夫(編集部)

『洪水』
茂木ミユキ-J.jpg



Maxi Single
東芝EMI
TOCT-4347
¥1,000(税抜)
1月30日発売

天性のヒーリング・ヴォイスの持ち主、茂木ミユキ(みゆ)のデビュー・シングル。松本隆が詞を、デンマークのSSWソルヴァイが曲を提供した「心地よさ」溢れる1枚。声の持つ不思議な魔力が、あなたを瞬時に異次元へと誘う。みゆ的「愛と平和」がテーマのC/W「Engagement」は、彼女自身が作詞も担当。

【茂木ミユキ 公式ブログ】http://ameblo.jp/miuke/

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