ORIGINAL LOVE

変幻自在のオリジナル・ラヴ・ワールド健在！
プロフェッショナルなサウンドに、色気たっぷりの田島貴男のヴォーカリスト魂が宿った、
まさに"アダルト・オンリー"なアルバムが登場！

（初出『Groovin'』2002年3月25日号）

　田島貴男は「俺はブルースを歌い続ける」と語ったそうだ。私がまだ学生の頃、私を含め周りの連中は精一杯背伸びをして、ブルース、R&B、そしてレゲエを常食にしていたものだった。誰もまともなステレオなんか持っていなかったので、下北あたりの怪しげな店で、大音量の素敵なブラック・ミュージックを肴にマイヤーズラムを飲みながら、"日本人にブルースは演奏できるか？" "演歌以外の手段で日本人のソウルを物真似ではなく表現できるか？"なんてことを夜から夜まで語ったものだ（相当美化してるが…）。ブルースといえばブラック特有の音楽で、それ以外の人種には真似できない"血の音楽"というこだわりがある一方で、ブルースとはその魂の叫びを吐き出すものなのだから東洋人の俺たちにもできるはずだ！という妙な自信に満ちた意見を持った奴もいたものだった。実際、日本人がそのウワズミだけをなぞったものは聴き苦しい物真似であることが多いが、中には素晴らしくブルースしていて、それでいてワン・アンド・オンリーなアーティストも少なくない。そんな音楽は3コード12小節の形式にこだわっていない、スタイルとしてのブルースはまったく無視したものだったりする。極端な言い方をすれば魂のこもった楽器の音色、歌はすべてブルースともいえる。音楽とはいえない（言いたくない）デジタルな音が幅をきかせる現在、"新しいブルース"を探し出すのは難しい世の中になってしまったというのが実感だが、"新しいスタイルのブルース"はこれからも生まれ続けるだろう。
　前置きが長くなってしまった。オリジナル・ラヴの10thアルバム『ムーンストーン』だ。今回も、新加入の鹿島達也（彼のウッド・ベースは本当に心地よく響く）、そして木暮晋也、平井直己、松本健一、L?K?Oら、旧知のメンバーと共に、小細工抜きの一発録りか!?とも思わせる、良質のサウンドを届けてくれた。それはSAMBA、BOSSA NOVA、LATAIN、TANGO、FUNKに加え、プログレの匂いも漂ってくる、実にプロフェッショナルなもので、田島のヴォーカルと一体となって心地よいグルーヴを全編に渡って生み出している。オケと歌、っていうんじゃなく完全に一体化してるんだよね。さらに田島は最近怪しげな色気に更に磨きがかかってきたようにも思える。
　カーステでBGMにするも良し、ヘッドフォンを装着して隅々まで真剣に聴きこんでも良し。朝でも夜でも、1人でも恋人とでも、どんな聴き方をしても今作の素晴らしさは実感できるはずだ。前作『ビッグクランチ』で見られたような、ストレートな演奏の爆音ロックが見られないのが個人的には寂しいが、今作からはその分、裸の田島貴男自身、そして彼の魂が見えてくるようだ。つまりこれってブルースじゃん。もちろん田島が語った「俺はブルースを歌い続ける」という言葉はウワズミをなぞったブルースではなく、魂を自分の歌声にのせて届け続けるという宣言なのだ。そうそう、もうひとつ"ブルース"に絶対はずせない条件がある。生演奏で再現できるということ。煙草の煙が漂う小さな小屋で、ぜひ本作の収録曲を楽しんでみたい。

Text by 富田 聡（宇都宮戸祭店）