米倉利紀

ARTIST PICK UP

米倉利紀

「これが僕のstyleです」
米倉利紀がデビュー10周年の今年、自信を持って送り出すニュー・アルバムは、
彼のルーツと音楽への熱い思いが込められた渾身の1枚。

(初出『Groovin'』2002年3月25日号)

 新陳代謝の激しい日本の音楽シーンの中にあって、もうすぐデビュー10周年を迎えるというのだから、すでにベテランといっても差し支えないだろう。しかもその間、日本のポップスとブラック・ミュージックの融合という、一貫した音楽スタイルを持ち続けている数少ないアーティストだと思う。それは彼なりの強固なポリシーかもしれないし、ブラック・ミュージック、とりわけR&Bに対する深い愛情の表れなのかもしれない。とにかくそのサウンドに頑ななまでのオリジナリティがあるからこそ、こうして多くの支持を得続けられていることは確かだ。
 そんな米倉利紀が、昨年発売された『O』に続くオリジナル・アルバムを完成させた。『roots of style』と名付けられた今作は、「これが僕のStyleです」〜そんな彼の意思表明がはっきりと聞こえてくるようなポップ・テイストのR&Bアルバムに仕上がっている。長年のコラボレートにより、すでに米倉サウンドにはなくてはならない存在となった、"Prince Charles" Alexanderと、今回が初めてのアルバム参加となるFulani Hartと共に作り上げたという今作は、彼のルーツであるR&Bを新旧様々な視点から捉え、そこに自身のメロディと詞、そして音楽に対する思いとリスペクトをそそぎ込んだ入魂の1枚だ。またHIP HOPや先端のビートを取り入れることで、さりげなく大人の遊び心を披露してみたり、その中にも日本人のソウルを滲ませるメロディがあったりと、アルバムの端々にも彼の懐の深さを感じる事ができる。
 そして今作には、恋愛のはじまり、別れ、不倫等、様々なシチュエーションが用いられ、まさに十曲十色の愛が歌われているのだが、聴いてもらえればわかるとおり、そのひとつひとつが重く大きなリアリティを伴って伝わってくる。それはやはり、彼のラヴ・ソングから感じられる、人間的な深みのせいだと思う。今時小学生だって「愛してるよ」なんて平気で言っているらしいし、ラヴ・ソングも等身大とか日常的とかいう言葉を借りてどんどんカジュアル化しているような気がする。実際、歌詞が恋愛を歌っていればラヴ・ソングなの?と疑いたくなる曲も多い。そこには何の重みも、もしかしたら想いさえもないのかもしれない。しかし今作を聴いて伝わってくるのは、そういった表層的なものではない、人間の心の内からわき出るような深い愛情。例えば、メロウで切ない、バラードの王道ともいえるようなナンバー「no need for reason」の「逢いたいから逢って、抱きたいから抱いて」のワンフレーズには恋愛のすべてが集約されていると思う。そうしたフレーズを生みだし、そして歌いこなせるだけの成熟を、アーティストとしてはもちろん、1人の人間としても果たしているのが今の米倉利紀なのだ。
 何より彼には、シンガーとしての華やかさがある。当然音楽に対してはストイックな姿勢で臨んでいるはずだが、それをリスナーに感じさせないぐらいの華やかさ(これはある種の色気と言い換えてもいいかもしれない)が。それはエンターテイナーにとって最も重要な資質だと思うし、多くの女性ファンを引きつける原因にもなっているのだろう。
 胸を張って自身のスタイルを宣言したこのアルバムは、彼にとっても特別な作品になるに違いない。また進化しつつある日本のR&Bシーンにさらなる活力を与えてくれる、パワーと完成度を持った今作、音楽ファンなら聴き逃せない1枚だろう。

Text by 鮎川夕子(編集部)

『roots of style』
米倉利紀-J.jpg



CD
ワーナーミュージック・ジャパン
WPCV-10163
¥2,913(税抜)
発売中

デビュー10周年を記念する今作は、彼の持ち味であるR&Bテイストを前面に押し出しながら、米倉流のポップ感、グルーヴ感を最大限に注入した、まさに彼の"roots of style"と言える、入魂の1枚だ。初回盤のみ、三方背BOX仕様、16ページ豪華写真集付き。

【米倉利紀 公式サイト】http://www.toshinoriyonekura.com/

inserted by FC2 system