久保田利伸

他の追随をゆるさないそのソウル・マインドは、
限りなくJ-POPのストライク・ゾーンを狙い撃ち！
ファンキー大魔王のグルーヴィー&ポップ・アルバムを受けてみよ！

（初出『Groovin'』2002年3月25日号）

　日本のソウル系と呼ばれるアーティストの中で、"グルーヴィー"、"ファンキー"という意味で僕が真っ先に思い浮かべるのが久保田利伸。改めていうまでもなく、久保田利伸といえば"ファンキー"、"ファンキー"といえば久保田利伸というのが常である。そう、彼はファンキー大魔王！彼の声は独特のヴァイヴを持ち、メロディとともにグルーヴする。そして、サウンドの持つグルーヴと見事に調和し、久保田利伸だけにしか出すことのできない心地よいグルーヴ感を生み出す。それはアップ・チューンでも、メロウなナンバーでも変わらない。シンガーとしてのイメージが強いかもしれないが、彼はれっきとしたソングライターである。このことが独自のグルーヴ感を生み出している1つの要因になっていることは確かだ。
　昨年11月にリリースされ、ドラマ主題歌ともなったシングル「Candy Rain」は、大ヒット・ナンバー「LA・LA・LA LOVE SONG」にも通じるミディアム・メロウな王道ナンバーで、彼が気象予報士に扮したプロモーション・ビデオが印象的だった。続いて今年2月にリリースされたシングル「Respect（this&that）」は、Respect the difference（＝違う互いを尊重し合おう）という思いをポップでファンキーなサウンドにのせたメッセージ・ソング。この曲の歌詞を読んだ時フッとよぎったのがマーヴィン・ゲイの不朽の名曲「ホワッツ・ゴーイン・オン」。どちらの曲にも共通していることは、愛し合い、話し合うことによって1つになろう、互いを尊重し合おう、ということ。日本に限らず、世界各地で信じられない事件や出来事が多発しているここ最近。互いを尊重し合うということが今一番人間にとって大切なのだ。そんなメッセージ・ソングではあるが、柔らかく人の心に届けたいという思いを込めてライト・ファンク的なパーティー・チューンにしたという。ちなみに間奏での80'sファンク・テイストなサウンドなどは、思わずニヤリとしてしまう。まさに久保田利伸本領発揮といったナンバーだった。
　そして、前作アルバム『As One』から1年半ぶりにリリースされるのが、本作『United Flow』。前述したシングル2曲の他に、NECの携帯電話のCMに使われていた、思わず口ずさんでしまうサビのメロディとメロウなグルーヴが心地よい「In your flow」、アーバン・ソウルなミディアム・ナンバーの「DO ME BABY」、彼の持ち味が遺憾なく発揮されたヒップホップ・ソウル・ナンバー「Because of you」などを収録。実を言うと、この原稿を書いている時点ではアルバムからセレクトされた数曲が入ったダイジェスト盤しか手元にないので、アルバムの全体像を完全につかむことができない。しかし、この数曲だけでも、期待を裏切らない仕上がりになっていることが容易に想像できる。そして今作は、ソウル/R&Bでありながら、そこはかとなく感じるポップさが心地よいアルバム『LA・LA・LA LOVE THANG』に近いポップさを持っている。デビュー以来ヒップホップ・ソウルにこだわり続け、独自のソウル・マインドを限りなくJ-POPというフィールドのストライク・ゾーンに持っていくことができる彼だからこそ、こうしたサウンドが出来るのだろう。
　活動のベースをN.Y.に移してからどれくらい経っただろうか。もはやニューヨーカーといってもいい久保田利伸。本場の最先端のソウル/R&Bを見事に昇華させたこのアルバムは、ニュースクール・ファンにも、オールドスクール・ファンにも楽しめる作品に仕上がっている。ポップという点においては、ここ最近の作品の中では一番だといえる。どうやら今年は、日本をベースに精力的な活動を予定しているらしい。今後の久保田利伸から目が離せそうにない。

Text by 常盤安信（秦野店）