モービー

ARTIST PICK UP

モービー

前作『PLAY』が世界で1000万枚というモンスター・セールスを記録。
ダンス、ロック、ヒップホップ…あらゆる要素を飲みこんだ結果生まれた、
新たなポップの結晶がこの『18』というアルバム。早くも21世紀のマスターピースに決定です!

(初出『Groovin'』2002年4月25日号)

モービー-A.jpg クラブ系のダンス・ミュージックというと、確かにフロア映えはするが、自宅でじっくりと鑑賞出来るものは意外と少ないような気がする。ごく普通の音楽ファンからすれば、最初から聴く空間を指定されているような、やや窮屈なイメージがあるし、ちょっとした疎外感さえ感じるんじゃないかと思う。しかも作り手の姿が見えづらい、匿名性の高いジャンルでもあるので、その中で名指しで支持されるアーティストはごくわずか。だがここで紹介するモービーは、今現在この界隈での支持率ナンバーワン、新作への期待値マックス!クラブだ、テクノだ、ダンスだといったジャンルを越え、シーンが大注目するアーティストなのである。
 さて、このモービー(ちなみにモービーというのは、彼が小説「白鯨」(原題「モービー・ディック」)の著者ハーマンメ・ルヴィルの直系の子孫であることからついたニックネームだそう)、91年に発表したシングル「ゴー」がUKチャートのトップ10入りを果たしたことでその名を知られ始めたが、本格的なデビューは95年のアルバム『エヴリシング・イズ・ロング』。過去にニュー・ウェイヴやパンクの洗礼を受けた彼が、あらゆるスタイルのテクノを消化して作り上げた作品だった。続いて2枚のアルバムを発表した後、彼に大事件が起こる。99年5月にリリースした『PLAY』が全世界でなんと1000万枚のセールスを記録。20数カ国でプラチナ・ディスクに輝くという快挙を成し遂げる。このアルバムがモービーのブレイク・ポイントとなったのは間違いないだろう。あれよあれよと言う間にクラブ・シーンの最重要人物になってしまった。2000年にはフジロックに出演し、ここ日本の音楽ファンを興奮の渦に陥れたことも記憶に新しい。
 そんな彼から待望のニュー・アルバムが届いた。今作『18』は、昨年2月に『Play』のツアーを終えた後、ニューヨークの彼の自宅で制作されたもの。クレジットをご覧いただければおわかりの通り、すべてがモービー1人の手で作られている。打ち込み、ブレイクビーツといったダンス・ミュージックに必須の要素に、ギターや鍵盤、そしてヴォーカルのメロディが叙情的に絡んでいくというサウンドだが、その折衷ぐあいが絶妙で、思わず聴き入ってしまう。ノリを重視しつつも、ノリに逃げない、実に硬派な作品が並ぶ。また、ロック、ヒップホップといったエッセンスの取り入れ方も上手く、そういった要素を集めることで新たなポップ性を打ち出すという技も見事に成功している。それゆえフロア対応が大前提ではあるが、自宅でじっくりという楽しみ方も絶対にありだと思う。おうちでダンス、そしておうちでチルアウト。
 また楽曲も多彩なものが揃っていて、歌モノとして十分成立しているんじゃないかと思えるほど、ヴォーカルをしっかり聴かせるナンバーもあるし、モービー流のメロウが注入された楽曲や、アンビエントな匂いが心地よいインストゥルメンタルもある。そんなふうに次々と繰り出されるサウンドが、リスナーのツボを的確に刺激し、快感へと導いてくれるのだ。そうした聴く者への気遣いとも取れる細やかなサウンド作りは、謙虚で、自己分析が鋭くて、客観的で、だけどとびきりハートフルな彼のキャラクターによるところも大きいのではないだろうか。そう思わせてしまうぐらいに、作り手の人間性がにじみ出ているアルバムでもある。
 とにかくいろんな楽しみ方が可能な今作ではあるが、楽曲に漂うスピリチュアルな雰囲気を感じてもらえれば、さらに深く味わえるんじゃないかと思う。いやはや、またもや傑作の誕生である。

Text by 鮎川夕子(編集部)

『18』
モービー-J.jpg




CD(8cmCD付き)
V2 Records Japan
V2CP-123〜4
¥2,400(税抜)
5月2日発売

前作『PLAY』が世界で1000万枚というモンスター・セールスを記録したモービー。全世界が注目する中リリースされる待望の新作。日本先行発売、日本盤のみ「WE ARE ALL MADE OF STARS」のコーネリアス・ミックス他を収録した8cmCD付き。

【モービー 日本オフィシャルサイト】http://www.emimusic.jp/artist/moby/

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