KICK THE CAN CREW

ARTIST PICK UP

KICK THE CAN CREW

『VITALIZER』旋風が吹き荒れている中、早くもニュー・マキシが登場!
第3期KICKの幕開けを飾る曲は、
パーソナルな感情を切々と歌ったメロウなナンバーだ。

(初出『Groovin'』2002年5月25日号)

KICK THE CAN CREW-A.jpg 男も30を超えると、今まで生きてきた上で獲得してきた様々な知識や確固たる価値観が、プライドという鎧に名前を変えてフットワークを重くさせることがある。そういうもので武装していないと、この世知辛い世の中を生き抜いていくことができないという現実もあるのだが、時にはその重い鎧が素直な欲望にまかせて突き進むことを邪魔したり、新しい一歩を躊躇させることもある。何も分かっていないゆえにできた若い時の暴走が、今ではできなくなっていることにある日突然気付いて愕然としたりするのだ。
 KICK THE CAN CREWのニュー・マキシ・シングル「sayonara sayonara」を聴いた時、自分が現在感じているそんな停滞感に喝を入れてくれているような気がして勇気付けられた。タイトルだけで想像すると恋人との別れの歌だと思いがちだが、内容はもっと硬派な、普段の生活から自然と出てきたリアルでパーソナルな感情を切々と歌った内容である。安易な恋愛ストーリーに流れない彼らのこだわりみたいなものが今作からもうかがえて好感が持てた。
 こじんまりとまとまってしまっている日々の生活のイライラに対して「自分のワク内カッコ内は恥かかず楽だし格好はいいが」「使える言い訳は全部使って高い壁に全然ぶつかってかない」と自戒し、「実はもっといきてえんだ今、今、今」と叫ぶ。そして「さよなら さよなら 俺の嫌いなところだけ」と過去の嫌な自分との決別を誓う。今回も韻を踏みまくった詩がスムーズに耳に入ってきて音としての気持ち良さは格別だが、その内容は一人の青年の飾ることのない(痛みさえ伴なった)告白である。その落差に、いつもながら驚き関心してしまう。
 思えば「クリスマス・イブRap」をリリースした時には、そのあまりの大ネタぶりのおかげで話題になったが、さて本当の実力は…という声も多かったはずだ。しかしそんな不安の声を吹き飛ばす素晴らしい出来だった次のシングル「マルシェ」や、チャート3位に初登場したメジャー・デビュー・アルバム『VITALIZER』を聴く限りでは、もはやHIP HOPというジャンルだけではない、ポピュラー・ミュージックの広い海でも十分に勝負できる実力を持ったアーティストだということが確信できる。現にHIP HOPを普段あまり聴かないという人達にも十分にアピールしていなければ、こんなに順調なチャート・アクションは見せないはずだ。そしてその幅広い人気の理由は(恐らく歌謡曲なども聴き漁っていただろうと思わせる)ポップで親しみやすいトラック・メイキングと、前述したような等身大で身近に感じるリリックの力だと思うのだ。
 冒頭で僕は、プライドという名の鎧が人生のフットワークを重くさせることがあると書いた。しかしそれは単なるエネルギー切れであることに対しての、いいわけに過ぎないことも自分では気付いている。歳などは関係なく、魅力のある人とは幾つになっても自分の欲望に素直でフットワークが軽いものなのだ。カッコ悪いかもしれないと躊躇することが、いかにカッコ悪いかということを、この「sayonara sayonara」を聴いて改めて思ったりした。

Text by 高瀬康一(編集部)

『sayonara sayonara』
KICK THE CAN CREW-J.jpg




Maxi Single
DREAM MACHINE/イーストウエスト・ジャパン
HDCA-10100
¥1,200(税抜)
発売中

ツアー直前の多忙な状態にも関わらずレコーディングを行い完成した「sayonara sayonara」は、KREVAのトラック・メイカーの才能が十分に発揮されたメロウなナンバー。更に新曲「bed」、DJ TATSUTA リミックスによる「KICK オフ」など、全6曲収録。

【KICK THE CAN CREW official web site】http://www.kickthecancrew.com/index2.html

inserted by FC2 system