HAPPY END PARADE〜tribute to はっぴいえんど〜

Fun! Fun! Fun! File
HAPPY END PARADE〜tribute to はっぴいえんど〜

70年代の日本のロック・シーンに新たな方向性を示した、はっぴいえんど。
彼らの試行錯誤の歴史とそれを支えた精神は、今新たな形で継承され、
このアルバムの中で色彩を放つ。

(初出『Groovin'』2002年5月25日号)

HAPPY END PARADE-A.jpg 最近は例えばラジオや音楽雑誌、CDショップといった様々な場所で「喫茶ロック」に代表されるような70年代の日本の音楽にスポットを当てた特集が組まれ、それが10代を中心とした若い世代からの支持を集めている。当然70年代を原体験として知らない世代にとって、こういった特集は新たなものとしてその目に映り、そしてそのサウンドは現在のJ-POPSシーンで活躍するアーティスト達のある意味ルーツ・ミュージックの1つとして、魅力的に聴こえるのであろう。またこういった動きと相まって、最近の音楽シーンではトリビュート盤が花盛りである。しかしよく考えてみると、こういったトリビュートというものは、本来アーティストやリスナーの個人的な部分、つまり心の奥で無意識のうちに行われるものであって、それが従来はあまりCDのようなプロダクツとして表に登場することが少なかったということだけだったように思う。音楽シーンというものは、乱暴な言い方をしてしまえば、このように常に個人的なトリビュート(=先達が作った音楽やサウンドへの愛情心)の繰り返しによってそこから新たな音楽が生まれ、成り立ってきたとも言える。
 トリビュートと単なるカヴァーは明らかに違うものだと、僕は考える。トリビュートはあくまでも心の問題であり、カヴァーとは単にその曲を演奏するという意味も含まれる。そこには例えば商業的な戦略に根ざした行為も、含まれるのかもしれない。だから僕らがトリビュートという言葉を使うときには、その心の部分がいかに作品の中に込められているのか、それがどこまで感じ取れるのかが重要なのだ。
 本作は、はっぴいえんどが70年〜72年の3年間に発表した3枚のアルバム…『はっぴいえんど』『風街ろまん』『HAPPY END』に収録された曲達を、現在のJ-POPSシーン最前線で活躍するアーティスト達が自分なりのスタンスで再現したアルバム。しかもそこには、オリジナル・メンバーである細野晴臣、鈴木茂が演奏で参加し、松本隆もジャケット・コンセプトとタイトルで加わっているという点でも、興味深い作品集だ。さらに細野晴臣がオーディションで選出した2組のアーティストも加わり、文字通り70年代〜現在までのシーンが1つの作品に集結した形となった。小西康陽による「はいからはくち」に始まり、はっぴいえんどを敬愛することで知られる曽我部恵一の「空いろのくれよん」や草野正宗の伸びやかなヴォーカルが映えるスピッツの「12月の雨の日」、Jim O'rourkeと組み田島貴男らしさが光るダイナミックでワイルドなヴォーカルの「抱きしめたい」、そしてくるり、デイジー、浜崎貴司+高野寛+TOKIEからなるBLACK EYE'S RIVER、空気公団、つじあやの、永積タカシ(SUPER BUTTER DOG)、MY LITTLE LOVER、青山陽一+鈴木茂、山下久美子& SOUL LOVERS meets 佐藤博、Leyona、キリンジ、Sons Of(Great 3の片寄明人とトータスのJohn McEntireのユニット)、キセル meets 細野晴臣、鈴木惣一朗と青柳拓次によるWORLD STANDARD meets KAMA AINAといったところに加え、今回オーディションで選ばれたHiroko & Mother Ship Jamと航空電子の2組が、新たな視点で独自の解釈による作品を提供。比較的オリジナルに近いテイストを生かしたカヴァーを試みた作品が多い中で、特に浜松出身の航空電子による斬新なスピード感溢れる「春よ来い」の解釈は、ある意味上の世代には出来ない新鮮さに溢れている。
 かつて大滝詠一が、巨人軍の長嶋茂雄の引退セレモニーでの有名な言葉について、ラジオの番組でこういう要旨のことを語ったことがある。「我が巨人軍は永遠に不滅です…ここでいう"我が巨人軍"とは単に"私の"ということではなく、彼にとっての"我が内なる巨人軍への思い"なのだ」と。同じように、はっぴいえんどに対してトリビュートするということは、つまり聴き手にとっても"我が内なるはっぴいえんど"への思いの強さを計ると同時に、そこからはっぴいえんどの音楽に対する愛情の深さを改めて認識する1つの手段でもあると僕は思うのだ。
 本作から、それぞれの参加アーティストのはっぴいえんどに対する思いを、是非あなたも真っ直ぐに受け止めて欲しい。特に10代の音楽ファンの心に、彼らのサウンドがどのような形で伝わるのか、そしてそれがどのような形で今後のJ-POPSシーンに現れてくるのか、楽しみにしたいと思う。

Text by 土橋一夫(編集部)

『HAPPY END PARADE〜tribute to はっぴいえんど〜』
HAPPY END PARADE-J.jpg



CD(2枚組)
ビクターエンタテインメント
VICL-60881〜2
¥3,700(税抜)
発売中

小西康陽、曽我部恵一、スピッツ、くるり、空気公団、つじあやの、青山陽一、キリンジ、WORLD STANDARDら+細野晴臣が選考した2組の新人が参加した話題のはっぴいえんどトリビュート盤。細野晴臣や鈴木茂も参加、タイトル&ジャケット・コンセプトは松本隆と、オリジナル・メンバーも参加の充実作。70'sの作品と精神が今に脈々と続いていることを体感できる、貴重な作品だ。

inserted by FC2 system