桑田佳祐

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桑田佳祐

「波乗りジョニー」「白い恋人達」と2作のシングルのミリオン・ヒット、
札幌でのクリスマス・ライヴと、昨年は精力的な活動を見せた桑田佳祐。
2002年、彼から届いた新たなメッセージが、このニュー・シングル「東京」だ。

(初出『Groovin'』2002年6月25日号)

桑田佳祐-A.jpg 昨年は「波乗りジョニー」「白い恋人達」と、発表した2枚のシングルがミリオン・ヒット。またCDリリースだけなく、年末には札幌でクリスマス・ライヴを行うなど、順調なソロ活動が続いていた桑田佳祐。今年に入ってからはずっとレコーディング・スタジオにこもっていた彼が、いよいよ待望のニュー・シングルをリリースするとの情報が入ってきた。
 さてここで、誰もが大きな期待と共に予想するサウンドがあるだろう。前2作のシングル、すぐそこまで来ている夏、桑田佳祐という希代のメロディ・メイカーが持つポップ・センス…そういったファクターから自然と導かれる音を、私も同じように期待していた。しかし今作を一聴して、それがどんなに浅はかな予想だったかを思い知らされることになる。
 今作で描かれるのは、真夏の海岸でもなければ、もちろん雪景色の中の恋人達でもなかった。ほの暗い東京の空、降り続く冷たい雨、ただ呆然と立ちつくす1人の男。絶望と退廃にまみれながら、なけなしの希望を去っていった恋人に捧げ、そっと世を儚む。だけど彼に手を差し伸べる者は誰もいない…リスナーにそんな強烈な映像を喚起させる今作は、へヴィでセンセーショナルなロック・バラード。扇情的なギターや言葉を噛みしめるように歌うヴォーカルには、ジャズやブルースのインプロヴィゼーション的なニュアンスが感じられ、その鬼気迫るような臨場感が今作から浮かんでくる映像を一層クリアにしていく。また、移りゆく世相を大きく映し出していた昭和歌謡にも通じるものがあるが、"時代が背負ってしまった"哀愁感や混沌とした空気がリスナーを包みこみ、そのまま深い孤独の谷底へ突き落とす。そんなやるせない気持ちに追い打ちをかけるかのように激しく刻まれる3連のピアノは、いつまでも止むことのない雨音にも聞こえる。
 そして、この曲がずっしりと重く、何よりも生々しく心にのしかかってくる大きな要因のひとつが、ロック・バンド・テイストを強調した、スリリングかつ一体感のあるサウンドだろう。今作のレコーディングは、とにかく生のセッションにこだわって進められたという。彼が信頼をよせるミュージシャンたちと共に作り出した大きな音のうねりは、とてつもない破壊力を持って私たちの耳に押し寄せてくる。それは最近の邦楽には感じたことのない衝撃である。音楽シーンのトップを走り続ける桑田佳祐が、あえてこういったへヴィでダークなサウンドを提示してきたことに驚きを覚えながら、実は私たちが彼に一番期待していたのは、こうした予測不可能な衝撃だったのだと気付いた。
 またカップリングには、既にCMでおなじみの2曲を収録。フォーク・ロック・テイストの「夏の日の少年」と、甘く切ないメロディがノスタルジックに響くミディアム・チューン「可愛いミーナ」というポップ・ナンバーが入ったことで、作品としてのバランスが取れたのは確かである。しかしそれだけでなく、この3曲で構成されたことによって、今作がもうすぐ完成する8年ぶりのオリジナル・ソロ・アルバムの予告編の役割も果たしているのだと思う。
 今後その活動に大きな動きが予想される桑田佳祐。近々発売が予定されているオリジナル・アルバムに期待が高まるのは当然として、まずは今作で、彼が発信しようとしているサウンドと最新のメッセージを確認してほしい。

Text by 鮎川夕子(編集部)

『東京』
桑田佳祐-J.jpg






Maxi Single
ビクターエンタテインメント
VICL-35380
¥1,200(税抜)
6月26日発売

待望のニュー・シングルは意外にも、へヴィでセンセーショナルなロック・バラード。カップリングには「夏の日の少年」(タウン&カントリーCM使用曲)と「可愛いミーナ」(No Reasonコカ・コーラ キャンペーンソング)を収録。初回盤のみケース入りオリジナル・ジャケット。

【オフィシャルHP】http://www.sas-fan.net/

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