愛内里菜

最新アルバム『POWER OF WORDS』で、更なる成長を見せてくれた愛内里菜。
早くもリリースされるニュー・マキシは、
テレビ番組の挿入歌としてオンエア中の2曲を収録した両A面シングル。

（初出『Groovin'』2002年7月25日号）

　ここ最近、手紙というものをまったく書いていない。昔から筆まめな方ではなかったけれど、それでも数年前までは、遠く離れた友人とは手紙を介して連絡を取り合うことが多かった。電話とは違って、ちゃんと文字として形に残っていくメッセージは、なんだか特別なものだったし、見覚えのある筆跡に相手の姿を重ねて、ほっと安心出来た。それが今ではレターセットさえも自分の部屋の中にあるのかどうかあやしい。だからといって文字的コミュニケーション不足に陥っているかというと決してそうではなく、むしろ過剰なくらいである。その原因はお察しのとおり、メールだ。この、いつでもどこでも簡単に送れるメッセージによって、手紙なんていう手のかかる伝達手段を敬遠する人が多くなってしまったのだろう。だけど、画面の中で光っている文字の羅列に、言い様のない寂しさを感じることはないだろうか。
　そんなことを考えるきっかけになったのが、何を隠そう、この愛内里菜のニュー・マキシ・シングル「Sincerely Yours」なのである。フジテレビ系水曜19時「ザ・レターズ」の挿入歌としてすでにオンエアされている楽曲だ。"1通の手紙をきっかけに、タレントとその家族の姿を追ったドキュメンタリー"という番組の企画にぴったりとハマッた今作の歌詞は、彼女が自身の家族に対する思いを綴ったものだという。面と向かっては言えない、無償の愛情を注いでくれた人への心からの感謝の気持ちが、彼女らしい素直な言葉で表現されている。
　また、パワフルなヴォーカルが印象強い彼女だが、今作ではやわらかなミディアム・ナンバーに乗せて、ひとつひとつの言葉をかみしめるように歌っている。そしてその歌声は、白い便箋にインクが染みていくように、じんわりと胸の中に浸透していくのだ。きっとこの曲で彼女から届けられたメッセージは、あっという間に届いて、ボタン1つで消去されるメールのようなものではなく、丁寧に思いがしたためられた手紙にとても近いものなのだと思う。
　そしてそのメッセージは、はじめは彼女から家族に対してのものだったかもしれないが、次第に枝葉を広げていったようだ。先日大成功に終わった初の全国ツアーの中で、この曲はアンコールの1曲目に歌われていた。言うまでもなく、ファンに対する感謝のメッセージとなっていたのである。また、周囲への気配りを忘れない彼女のことだ、ライヴを支えてくれたスタッフにもその気持ちを届けていたに違いない。さらに今作には、オリコンチャート1位を獲得した最新アルバム『POWER OF WORDS』に収められていたバラード「Can you feel the POWER OF WORDS?-DJ ME-YA'S ESSENCE OF WORDS-」が両A面として収録されており、こちらも「ザ・レターズ」の挿入歌となっている。
　ご存知のとおり、「Sincerely Yours」は手紙の最後に付ける決まり文句。この短い言葉には、目の前にはいないけれど確かな絆で結ばれている、そんな相手への思いやりと愛情が込められているのだと思う。そして今作で、こんなに温かい気持ちにさせてくれた彼女にも「Sincerely Yours」という言葉を送ってあげたい。そんな気分にさせる1枚だ。

Text by 鮎川夕子（編集部）