orange pekoe

ARTIST PICK UP

orange pekoe

早くも届けられたニュー・マキシは、
生楽器のアンサンブルが心地いいハッピー・チューン。
日常の風景を鮮やかに彩るこの曲で、真夏の扉を開けてみてはいかが!

(初出『Groovin'』2002年7月25日号)

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 ボサ・ノヴァの名曲に「Tristeza」という曲がある。エドゥ・ロボが作り、今までにたくさんのブラジルのミュージシャンによって歌い継がれてきた名曲だ。僕はアストラッド・ジルベルトとワルター・ワンダーレイの共演盤でこの曲を知ったのだが、どのヴァージョンで聴いても生きる喜びを感じる素晴らしいナンバーである。基本的にはサンバのリズムにのった高揚感溢れる曲なのだが、同時に「悲しみを追い出してしまおう」という歌詞に反映されるように、どこかしら切なくクールな空気も漂う。僕がボサ・ノヴァを好きな理由はオシャレでも癒されるからでもなく、この"ちょっと影のある幸福感"がリアルに感じるからだ。
orange pekoeの4thマキシ・シングルとなる「Honeysuckle」を聴いた時、この「Tristeza」を思い出した。「Honeysuckle」というタイトルだけ見れば、かのファッツ・ウォーラー作のスタンダード・ナンバーである「Honeysuckle Rose」という曲を思い出すが(ルイ・アームストロングやアニタ・オデイ、そしてオレペコのヴォーカルのナガシマトモコが心の師と仰ぐエリス・レジーナもトゥーツ・シールマンズとの共演盤で歌っている名曲)、曲のイメージから感じる幸せな高揚感とクールな佇まいから「Tristeza」との共通点を感じたのだ。
 などと思いながら資料を読んでいたら、この新曲について次のようなコメントがあった。「オレペコのテーマであるハッピーとクールの融合を、生楽器+プログラミングという手法から、より解放された生楽器のみという手法で表現したい、というのがオレペコの新たな挑戦」…なるほど"ハッピーとクールの融合"がテーマだとしたら、この曲は生楽器のみでほぼ一発録りに近いかたちで録音されたゆえの躍動と、それぞれの楽器の音色が持つクールさが、日常の風景をちょっと特別な空気に変えてしまう魅力を持っている。
 例えば東京の街を歩いている時にこの曲を聴いたとしたら、イントロのガット・ギターが耳に入ってきた途端に、見慣れたモノクロの風景が生き生きとカラフルに彩られ始めるだろう。まるで蜜を運びながら花と戯れる蜂のように舞うフルートを聴くと、蒸し暑い都会の空気が軽やかに流れだす。ジャズの影響を感じさせるギター・ソロは、周囲の温度を2、3度下げるクールなフレージングが格好いいし、ソウルフルなナガシマトモコのヴォーカルは、歩くリズムを力強いものに変えてしまう。みんなでお祭り騒ぎするようなハデな曲という印象よりも、夏の午後の散歩を粋に演出してくれるような、そんなハッピーでクールな曲だと思う。
人はいつも幸せじゃないし、毎日を完璧に明るく生きられるほど単純でもない。虚しさや寂しさや切なさを抱えたままそれでも何とか前向きに生きようとする。そんな日々のBGMとしてそっと背後に流しておきたいのは、何の悩みもない脳天気ポップスでも、おせっかいな応援ソングでも、涙を誘う陰気なバラードでもない。心の隙間をクールに隠して幸せな佇まいを見せる強さを持った、この「Honeysuckle」のような大人のポップスだと思う。

Text by 高瀬康一(編集部)

『Honeysuckle』
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Maxi Single
BMGファンハウス
BVCS-29601
¥1,000(税抜)
発売中

1stアルバムでみられたプログラミングされた音から一転、生楽器だけで録音された4thマキシ。作詞はナガシマトモコ、作曲/編曲は藤本一馬。トラック2はU.F.O.のラファエルがリミックスしたサンバ・ヴァージョン。パソコンでPVが見られるエンハンスド・トラックも追加。

【orange pekoe official website】 http://www.orange-pekoe.com

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