稲葉浩志

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稲葉浩志

久々に稲葉浩志がB'zの鎧を脱いだ?!
97年の『マグマ』以来、実に約5年8ヶ月ぶりとなる2ndソロ・アルバム『志庵』は、
彼一流のこだわりをワガママに具現化した最高の1枚だ。

(初出『Groovin'』2002年9月25日号)

稲葉浩志-A.jpg 男の人は「自分の城」というものに対して女よりもずっと強いこだわりを持っていると思うのですが、世の男性諸君、私のこの見解はいかがなモンでしょうか?「自分の城」とは、たとえば思春期の男の子にとっては自分だけの部屋を意味するのかもしれないし、もう少し年齢が上がればひとり暮らしの住まいを指すのかもしれない。いずれにせよ、そのどれにも共通するのは「素の自分に戻れる空間」であるということ。個人的な趣味嗜好を遠慮なく押し出せる自分だけのスペースで、自由気侭に時間と戯れる…それは、何かと強さを求められる男性諸氏が鎧を脱ぎ捨て、己の本来の姿を取り戻せる安らぎのひとときなのかもしれない。
 日本の音楽シーンにおける巨大なメイン・ストリーム、そのトップに君臨するB'zのヴォーカリスト・稲葉浩志といえども、それは例外ではないと思う。彼にとっての「自分の城」とは、自身の音楽的欲求を余すところなく投影したプライベート・スタジオ「志庵」(Shian)を指すのではないだろうか。そしてそこは、稲葉浩志というひとりの人間に立ち返り、自らを見つめ直す特別な空間なのではないか。
 もしそうだとしたら、本作の仕上がり具合にも合点がいく。プライベート・スタジオで制作を試み、しかもその名をまんまタイトルに据えた2ndソロ・アルバム『志庵』は、彼一流のこだわりをワガママに具現化した極上の作品に他ならないのだから。
 そんな本作をひとことで言うならば、ズバリ「自由奔放」!ヘヴィー級のディストーション・サウンドが炸裂する「TRASH」「Here I am!!」等、ハードなロック・テイストに重心を置きつつも、乾いたリズムの中でジャジーなベースとピアノが泳ぐ「Touch」や、ドラマティックで壮大なミディアム・バラード「Overture」、そしてマットなギターがメロウかつペーソス溢れる「GO」といったラインナップを揃え、思うままにサウンド世界を構築しているのである。また、全12曲のうち、ヴォーカルはもちろん、作詞・作曲、プロデュースに至るまで全て自身で手掛け、ほとんどの曲において自らギターを演奏しているのも、実に心憎いポイントだ。
 歌詞に関してもそう。地団駄感満載のモノローグ、とでも言うべきお馴染みの稲葉ワールドは、より身近でわかりやすい言葉を従えてリアルなシーンを鋭利に、そして自在に切り取っていく。たとえばそれは「ファミレス午前3時」の中の「ほらほらコーヒーが冷めちゃってるよ/熱いのもう一杯/注いでもらいなよ」であったり、「Seno de Revolution」における「電話で言い争いになって/メシの最中またモメる」であったり。極めつけは1曲目の「O.NO.RE」。「まだまだ奥は深いのう」「やりゃええんじゃ」等、自らの出身地・岡山の方言を要所に絡めたこの異色作には、心底参った(私が広島弁マスターであることも多分に関係していると思いますが)。だからなのだろう、相変わらずパワフルなヴォーカルについても、どこかリラックスした雰囲気が感じられてならないのである。
 そう、もうおわかりですね?彼の「自分の城」である(と思われる)プライベート・スタジオ「志庵」の空気をたっぷり含んだ本作は、手作りと言うにはあまりにもゴージャスな、それでいてB'zという鎧を脱いだ稲葉浩志その人を120%堪能出来る最高の1枚なのだ。ホレ、能書きはええけぇ、とにかく聴いてみりゃええんじゃ!…なんてね。

Text by 秋野 櫻

『志庵』
稲葉浩志-J.jpg




CD
VERMILLION RECORDS
BMCV-8006
¥2,913(税抜)
10月9日発売

ご存じ、B'zのヴォーカリスト、稲葉浩志が約5年8ヶ月ぶりに放つ珠玉の2ndソロ・アルバム。ヴォーカルはもちろん、作詞・作曲、プロデュースに至るまで全て自身で手掛け、更にはギターも演奏!プライベート・スタジオ「志庵」の自由な空気と、B'zとはひと味違う彼の魅力が詰まった全12曲だ!

【B'z Official Website】http://bz-vermillion.com/

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