夏川りみ

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夏川りみ

21世紀版「花」とも言える「涙そうそう」がロングヒットを記録している夏川りみ。
待望の1stフル・アルバムは、
澄んだ歌声が優しく心を満たす珠玉の作品集だ。

(初出『Groovin'』2002年9月25日号)

夏川りみ-A.jpg 沖縄に行こう行こうと思い続けて何年が経とうとしているだろか。どうせ行くなら国内よりも海外という、逆島国根性みたいなミエのせいで最近は旅行に行くなら海外ということになってしまっていた。しかし昨今の沖縄音楽ブームに触発されるかたちで、自分の中で沸々と沖縄に対する興味が再び湧いてきたのだ。
 僕の場合、いつも何かの興味は音楽がきっかけとなっている。沖縄への最初の興味も、学生の時に聴いた久保田麻琴&夕焼け楽団のアルバム『ハワイ・チャンプルー』に収録されている「ハイサイおじさん」がきっかけだった。喜納昌吉が作ったこの曲の琉球音階を使った摩訶不思議な浮遊感と、何を言っているのか全く解読できない沖縄独特の方言。西欧のロックや、それに影響された日本の音楽シーンでは体験できない強烈インパクト。こんな楽曲を生み出してしまう沖縄という民族や文化に興味を抱いたのだ。その興味は更に進み、最終的になぜ自分は沖縄音楽に興味を持つのだろうか?という根本的な疑問に行きついたのだが、当然そんな疑問の答えは簡単に分かるわけがない。
 そんな訳で、今回紹介する夏川りみの1stフル・アルバム『てぃだ〜太陽・風ぬ想い〜』も興味深く聴いた。11曲の楽曲は新旧とりまぜた沖縄スタンダードで構成されており、もともとはBEGINが森山良子にプレゼントした曲で、夏川自身のヴァージョンも去年の3月にマキシ・シングルとして発売され早くもロングセラーからスタンダード曲と姿を変えつつある「涙そうそう」や、同じくBEGINの島袋 優が書き下ろした「赤花ひとつ」、沖縄出身の仲間であるKiroroのカヴァー「月の夜」、そして日本が生んだ世界に誇る沖縄ソングとなったTHE BOOMの「島唄」といった強力ナンバーばかりだ。それらの楽曲のアレンジは、沖縄の音楽性をベースにしつつもポップスのフィルターを1回通った感じになっており、あまり泥臭くならないように気を遣っているのが分かる。そこら辺のサジ加減は、杉真理などのアルバムで印象的な仕事を残している京田誠一や、日本のアコースティック・ギターの第一人者、吉川忠英といった作・編曲家の持っているバランス感覚だろう。
 しかし個人的に一番心惹かれたのは、「赤田首里殿内(アカタスンドゥンチ)」や「安里屋ユンタ(アサドヤユンタ)」といった純粋な沖縄民謡である。作曲者のクレジットが無く"沖縄民謡"とだけ書かれてあるので、長い年月をかけて琉球人の耳から耳へ、親から子へと伝わってきたと思われるが、歌詞の内容は分からないものの、何とも言えない感情の深さ、心に染み入る懐かしさを感じるのだ。それら古い曲に新しい命を吹き込む夏川りみの表現力の結果とも言えるが、この大海に抱かれているような心安らぐ懐かしさは一体どこからくるのだろう。
 数年前に見た、日本人のルーツを探るというような検証番組で、太古の昔に日本人の祖先の一部である海洋民族が日本に辿り着いたルートとして、東南アジア〜琉球諸島という道筋の可能性を示唆していた。もしかしたら多くの日本人のDNAには琉球文化の記憶が刻み込まれているなんて想像は飛躍しすぎだろうか。今年の1月にバリ諸島に行った時に聴いた伝統的なバリ舞踊の音楽に、このアルバムの中の沖縄民謡と同じ郷愁を感じたのはただの偶然じゃないのかも知れない。

Text by 高瀬康一(編集部)

『てぃだ〜太陽・風ぬ想い〜』
夏川りみ-J.jpg




CD
ビクターエンタテインメント
VICL-60943
¥2,667(税抜)
発売中

沖縄県石垣島出身の夏川りみの1stフル・アルバム。タイトルの「てぃだ」というのは「太陽」のこと。南の島の陽射しのような強さと、風のような優しさを表したかったという、石垣島で育った彼女らしい願いのこもったタイトルが示すように、沖縄の自然を感じさせる透き通った声が心地良い全11曲。

【夏川りみ オフィシャルサイト】www.rimirimi.jp/

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