BECK

ARTIST PICK UP

BECK

BECKの新作、出来上がりました。
常に新たな音楽の次元を提示する天才BECK。
新作への渇望が臨界点にまで達したBECKフリークスに捧げるスタジオ4作目。

(初出『Groovin'』2002年9月25日号)

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 昨年のサマー・ソニックで、夏フェス"オオトリ"に相応しい強烈な存在感と、相変わらずのアーティスティックかつユニークなクオリティーの高いエンターテイメント・ショウを披露してくれたことも記憶に新しいBECK。そんな彼がいよいよ『ミッドナイト・ヴァルチャー』以来、3年振りとなる待望の新作アルバム『シー・チェンジ』を発表。プロデューサーは『ミューテーション』以来久々のナイジェル・ゴッドリッチ(レディオヘッドとの仕事でも有名)。その『ミューテーション』は、アコースティック・サウンドで構成されたアナザー・サイド・オブ BECK的な内容で、非常にプライベートな作品としてリリースされたが、今作はBECK曰く、そのアコースティック・ベースなものにファンキーさ、ダイナミズムが加わったモノになったそうだ。
 早速、試聴盤を聴いてみたのだが、その言葉どおり、どの曲からもBECKならではの独自のフォーキー・テイストが感じられる、アコースティックな楽曲に包まれた作品になっている。ニール・ヤングの「ハーベスト・ムーン」を彷彿とさせる曲や、70年代のアメリカのシンガー・ソングライター全盛時代、あるいはフォーク・ロック、カントリー・ロックを思い起こさせる雰囲気を持った曲がアルバム全体を支配している。しかし、その頃の曲をただ焼き直すだけの、単なる回顧主義に終わっておらず、ちゃんと1曲1曲に今日的なアレンジが細部にわたって施されている。ベースにあるものはアコースティック・ロックだが、ファンクな要素やアンビエントな音空間が絶妙にブレンドされているし(レディオヘッドのヒット作を手がけたプロデューサー、ナイジェル・ゴッドリッチの手腕によるところもあると思うが。それにしてもこの2人のコンビネーションは抜群)、こんな退廃的で美しい作品を作り上げるなんて、やはり天才肌で職人的なアーティスト、BECKの面目躍如といったところだろう。
 そして、今作はヴォーカリストとしてのBECKにも注目したい。アコースティック・サウンドがベースにあるということで、否が応でもヴォーカルが前面に出てくるわけだが、BECK独得の鎮静感漂うあのヴォーカルが、喪失感、漂泊感といった退廃的雰囲気に支配された今作の印象をより一層高めている。今まであまり語られることがなかったと思うが、BECKのヴォーカルには無垢な歌心が詰まっていると思う。無論、今作全ての曲の根底にもそれが存在している。
 3年間、BECKフリークスは新作を渇望していたに違いない。今作『シー・チェンジ』はそんなフリークスの期待に応え得る作品である。またしても、アーティストとしての懐の深さをみせつけたBECK。今作によって更なるBECKフリークスの増強は確実だろう。
 最後に、今作と平行して盟友、ダン"ジ・オートメーター"ナカムラとのレコーディングも進めていて、その作品のリリースもこのアルバムの後に考えているという。制作意欲が再びピークに達したBECKから、しばらく目が離せそうもない。

Text by 大林 誠(大仁店)

『シー・チェンジ』
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CD
ユニバーサル インターナショナル
UICF-1015
¥2,427(税抜)
発売中

待望の新作は、喪失感、漂泊感を表現したかのような内省的なナンバーが目につく、儚く美しいアコースティック・サウンドをベースにしたダウン・ビートな作品。無垢な歌心が溢れる彼のヴォーカルには鎮静感が漂い、まるで70年代アメリカにトリップしたかのよう。

【木住野佳子 公式サイト】www.kishino.net/

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