中島みゆき

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中島みゆき

時代の流れをも凌駕する孤高の女王・中島みゆきがセルフ・カヴァーアルバムをリリース。
他アーティストへの提供曲に加えて「夜会」でのオリジナル曲、更にはデビュー・アルバムに収録されている
名曲「海よ」を携えて、幻想的なお伽の世界が今ここに幕を開ける!

(初出『Groovin'』2002年10月25日号)

中島みゆき-A.jpg 「孤高の我流」…中島みゆきを称して、私は敬意を込めてそう呼びたい。歌の本質を自在に描き出すヴォーカル、素朴だけれど心に染み入るメロディー、そして含蓄溢れる歌詞。それらが織りなす独特の世界は誰にも真似出来ない唯一無二のものであり、それ故、1975年のデビュー当時から一貫して強烈な個性を放ち、数々のヒット曲を生み出してきた。しかしながら現在の音楽シーンにおいて、そうした独創性が流行やブームといった一時的な時代の流れにはじき飛ばされる危険性は、残念ながら高い。にもかかわらず、約2年前にリリースされたシングル「地上の星/ヘッドライト・テールライト」がいまだに驚異的なロングセールスを続けているのは、とりもなおさず、「孤高の我流」スタイルが気紛れな時代の流れを凌駕した現れなのではないかと思う。
 さて、そんな彼女であるからして、そのソングライティングの手腕に他アーティストからのラヴ・コールが殺到するのも無理からぬ話。そうして里子に出された数多の提供曲やコラボレート曲の中から7曲を厳選、加えて彼女のライフ・ワークとも言える異色コンサート「夜会」での演奏曲から3曲を、更には1976年にリリースされた1stアルバム『私の声が聞こえますか』より「海よ」をチョイスしてセルフ・カヴァーしたのが、この通算30枚目(!)のオリジナル・アルバムとなる『おとぎばなし−Fairy Ring−』である。
 時を刻む時計の音で幕を開ける本作は、全編、どことなく幻想的なムードに包まれており、タイトルに違わずまるで上質なお伽の歌を聴いているかのよう。これは、アルバムを構成する全11曲がそれぞれ内包している不思議な世界観の賜物。可愛らしい小人が登場する「陽紡ぎ唄」、まだ誰も見ぬユートピアへの憧憬を歌った「シャングリラ」、日本を代表する演劇人・唐十郎氏との共作にして芝居の質感を色濃く漂わせている「匂いガラス〜安寿子の靴」…そうしたお伽の世界が、時には少女へ、またある時は悩み多き女性へ、そして毅然とした一個の人間へと自在に変容する彼女のヴォーカルによって、語りかけるように歌い紡がれていくのである。
 自らの内から生まれた作品でありながら一旦は他流に味付けされた提供曲、それらに彼女がどのような我流的解釈を施したのかも聴きどころのひとつ。記憶に新しいところでは工藤静香に提供した「雪・月・花」、古くは研ナオコの「みにくいあひるの子」あたりがみなさまには馴染み深いのではないかと思う(ちなみにあたしゃバリバリの研ナオコ・リアルタイム派でやんす)。高倉健と裕木奈江による「あの人に似ている」も、共に曲を制作したさだまさし氏とのデュエットによって新たに再生。もし余力があれば、里子に出された該当曲を探し出して味付けの違いを楽しむのも一興だ。
 また、マイケル・トンプソンやディーン・パークス等、名立たるミュージシャンを迎えてのサウンド・ワークはというと、余計な音が一切存在しない納得の玄人仕様。バックトラックと歌のバランス配分が絶妙なのはもちろん、要所に見え隠れするオリエンタル・テイストがアルバム全体に漂う幻想性をより純化させているのも見逃せないポイントだ。
 そんな本作は、表現者・中島みゆきという孤高の個性を更に際立たせる珠玉の1枚。我流を極めた女王が歌いかける「おとぎばなし」は、夢心地にも似たひそやかな余韻を聴く者の心にそっと残してくれることだろう。そう、優しい輪郭を描く妖精の足跡のように…。

Text by 秋野 櫻

『おとぎばなし-Fairy Ring-』
中島みゆき-J.jpg




CD
ヤマハミュージックコミュニケーションズ
YCCW-00039
¥3,000(税抜)
発売中

「地上の星/ヘッドライト・テールライト」が驚異的なロング・セラーを続ける中島みゆきの通算30枚目となるオリジナル・アルバム。「雪・月・花」「みにくいあひるの子」等、他アーティストへの提供曲、「夜会」での演奏曲に加え、1stアルバム収録の「海よ」をセルフ・カヴァーした珠玉の全11曲だ。

【中島みゆき OFFICIAL SITE】http://www.miyuki.jp/

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