角松敏生

ARTIST PICK UP

角松敏生

キーワードは「ディスカヴァリー・ジャパン」。
日本人のルーツを角松ワールドに融合させた、新しいポップ・ミュージックの完成形。
それがニュー・アルバム『INCARNATIO』だ。

(初出『Groovin'』2002年10月25日号)

角松敏生-A.jpg 今から20年程前、ほとんど洋楽しか聴かなかった僕の前に、1人のアーティストが「シティ・ミュージック」という、その当時あまりなじみのない音楽カテゴリーの中から衝撃的なデビューを果たし、僕を虜にしてしまった。それが角松敏生である。彼のファースト・アルバム『SEA BREEZE』は、六本木ピット・インでの彼のデビュー・ライヴとともに僕の音楽DNAに深く刻まれてしまう。そして彼のサウンドを聴くたびに心地よいアドレナリンが体内に流れ出し、半ば中毒化してしまった僕は、彼のアルバムが発売になるとすぐに購入し、聴きまくるという習慣がもう20年もの間続いている。角松はデビュー当時から頑ななアルバム・オリエンティッドなアーティストで、現在メイン・ストリームとなってしまった感のある、ヒット・シングルの寄せ集め的なオリジナル・アルバムは一切創らず、非常に明確なテーマを持ったコンセプチュアルなアルバムを創り続けた数少ないJ-POPアーティストである。そして、その角松敏生の作品を聴き続けた事によって、彼の生み出した数々のアルバムとともに、自分の歩んできた過去、大げさに言えば歴史があるということを大変幸せに思うのだ。
 角松敏生の約2年ぶりとなるオリジナル・アルバム『INCARNATIO』が届けられた。その今作だが、まずプロローグ的ナンバーである1曲目から驚かせられる。幻想的なシンセ・サウンドに導かれて奏でられるリード楽器は、なんとアイヌのOKI氏による民族楽器トンコリと、沖縄の下地暁氏による三線。その2つがハモっているのである。角松節ともいえる爽快ポップスの2曲目でも、日本の北と南の象徴的な民族楽器であるその2つは鳴り続けている。しかし、この一見ミスマッチと思われるサウンドが、何の違和感も無く角松の作るポップス・ミュージックに溶け込んでいて、今までに無い新しい響きが生じている。こうした今作のサウンドについて彼は、彼自身が80年代から90年代初頭にかけてR&BやAORなどの西欧の音楽に迎合しようとしてきたことや、今のミュージック・シーンでも頻繁に見られる欧米音楽偏重型の傾向に対する疑問がそうさせたのだと語っている。そして彼の根っこにある日本人という遺伝子を呼び起こすために日本各地音楽探求の旅を行い、その結果、日本人である彼のポップスに必要不可欠なサウンドを発見したということである。このディスカヴァー・ジャパンの試みは見事に成功していて、彼の作る歌詞がより深遠な部分まで届くシンプルで力強いメロディとサウンドを醸し出している。
 20年という長きにわたり質の高いアルバムを創りつづけてきた角松が、自らの、そして僕達の民族的ルーツである日本を取り入れて出来上がった普遍的なポップ・ミュージックはあまりにも新鮮で懐かしく、そしてどこか優しい。新しい角松ワールドと言える今作。このアルバムもまた、僕のCD棚に眠ることなく、頻繁にプレイヤーのトレイに載ることは間違いない。

Text by 五味渕雅之(朝霞店)

『INCARNATIO』
角松敏生-J.jpg



CD
BMGファンハウス
BVCR-11044
¥2,913(税抜)
10月30日発売

約2年ぶりとなる角松敏生のニュー・アルバム。彼が自ら日本人のルーツを探すため、日本各地音楽探求の旅をして生まれたという音楽は、アイヌの民族楽器であるトンコリや沖縄の三線を取り入れた、新鮮でどこか懐かしいサウンド。日本人の耳に馴染む新しいポップスになっている。初回盤のみデジパック仕様、スペシャル・ブックレット封入。

【角松敏生 Official Site】http://www.toshiki-kadomatsu.jp/

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