ジェニファー・ロペス

ハリウッドでもトップクラスに君臨する女優としての顔、
そしてワールドワイドな支持を勝ち得たシンガーとしての顔。天が二物を与えた女神、
ジェニファー・ロペスの新作は、頂点を極めた彼女のありのままの姿を感じさせてくれる最高のアルバムだ。

（初出『Groovin'』2002年11月25日号）

　「天は二物を与えず」という言葉があるけれど、ジェニファー・ロペスの生きざまを見ているとそれが大ウソであることが充分過ぎるほどにわかる。「Sexiest Woman In The World」と称され、ラテン系の女性として最も高額のギャラ（なんと約15億円！）を獲得するトップ・アクトレス…これだけでもとてつもなく凄いことなのに、1999年に1stアルバム『On The 6』を発表するや、同作は全世界で600万枚のセールスを記録。そう、彼女はトップ・シンガーとしての地位までもデビューと同時に手に入れ、見事に二物をゲットしてしまったのである。
　それ以降も彼女の勢いは止まらない。2001年に発表した2ndアルバム『J.LO』並びに今年に入ってリリースしたリミックス・ベスト・アルバム『J TO THA L-O！THE REMIXES』も空前の大ヒット！HIP HOPとR&Bをクロスオーヴァーさせたオリジナリティー溢れるそのサウンドは、全世界規模で圧倒的な支持を獲得していったのである。かといって、女優業が疎かになっていたワケでは決してなく、それどころか以前にも増してパワーアップしているのだから恐れ入る。この秋に日本で公開された「エンジェル・アイズ」、そして来春公開予定の「イナフ」以降にも続々と主演作が控えているのだ。
　ハリウッドでもトップクラスに君臨する女優としての顔、そしてワールドワイドな支持を勝ち得たシンガーとしての顔。この2つの顔を持つジェニファー・ロペスの才能とヴァイタリティーには心から感服する。ついでに「アンタとはレベルが違い過ぎるッ！」というお叱りを覚悟の上で言わせてもらうと、私にとって彼女は「同じ女に生まれながら、人生、こうも違うものなのね…ふぅ」と羨望のため息を漏らさずにはいられない存在でもあるのだ。
　そんな「天から二物を授かった」彼女の3rdアルバム『This Is Me …Then』が遂に完成！全10曲のラインナップで構成された本作は、前2作に引き続きコーリー・ルーニーと彼女本人が制作を総指揮。自身のルーツを物語るラテン・ミュージック、加えてR&B、HIP HOPのテイストをミックスさせ、ジェニファー流にアレンジしたスタイリッシュなサウンド世界が繰り広げられている。
　中でも、先行マキシ・シングルとしてリリースされた「Jenny From The Block」は、本作に込められた彼女のマインドをまさに象徴する強力な存在だ。Totalが「No One Else」でフィーチャーした曲「South Bronx」と、これまたThe Beatnutsが「Watch Out Now」でフィーチャーした曲「Hi Jack」を大胆にサンプリング。そのシンプルにしてストイックなトラック上で、最強のHIP HOPグループ「LOX」のメンバー、スタイルズとジェイダキッスによるタフでアグレッシヴなラップが炸裂！この男っぽいサウンドをバックに、シルクのように滑らかな彼女のヴォーカルが自身の本音をありのままに歌いかけていく。周囲の憶測を痛快に皮肉りつつ「今は昔に比べてお金はあるかもしれないけど、私はいつでもブロンクスの街角育ちのジェニファーよ」とキッパリと言い切ってしまうところがなんともリアルでカッコイイのだ。
　そういう意味でも本作は、ワールドワイドな音楽シーンで頂点を極めた女神の、ありのままの姿を感じさせてくれる最高のアルバム。きっと、いや間違いなくシーンの歴史をまたもや塗り替えてしまうことだろう。

Text by 秋野 櫻