松本英子

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松本英子

寒い冬の午後。窓に降りそそぐ粉雪。
差し出された一杯のホットミルク。
松本英子の新作マキシは、そんなほっとさせるあったかさが詰まった珠玉のカヴァー集だ。

(初出『Groovin'』2002年12月25日号)

松本英子-A.jpg 今年7月にリリースしたセルフ・プロデュースによる3rdアルバム『カタルシス』で、人間的にも音楽的にも著しい成長をみせてくれた松本英子。福山雅治の作詞/作曲による2ndシングル『Squall』の大ヒットと、その後の学業専念のための音楽活動一時休止。それらの間に起こった出来事が、彼女にどれだけの大きな変化をもたらしたのかは想像しかねるが、常に彼女の意志を尊重させながら進行していった制作状況の下、すべての音に彼女の"今、やりたいこと"が詰まっている完成度の高いアルバムとなった。
そんな彼女が久々に発表するMaxi Singleが、2003年1月8日にリリースされる『今年の冬/夢見るシャンソン人形』だ。タイトルを見て「もしや?」と思った方も多いかもしれないが、M-1の「今年の冬」は槇原敬之の5枚目のアルバム『PHARMACY』に収録されている隠れた名曲をカヴァーしたもの。今年の夏、吉田拓郎や松たか子のプロデューサーとして有名な武部聡志氏が主宰するイベントで共演した際、槇原本人からこの曲のMDを手渡されたことが今回のカヴァーのきっかけとなったという。彼女は真冬の張り詰めた空気に白く描かれる吐息のように静かに歌い出し、どこにでもある恋人たちのささやかなストーリーを綴っていく。メロディや詩の情景描写のせいもあるが、やはり彼女の透明感のある声と真っすぐな歌心が聴く者をあったかい気持ちにさせてくれる。「雪国では雪が降ると暖かいんですよ…」そう語る秋田出身の彼女が、雪国での様々な思い入れや温かい想い出を歌詞に反映させて歌っているからかも知れない。サビでは槇原本人のコーラスも入り、男女のシチュエーションに呼応したアレンジに思わずグッときてしまった。
 M-2の「夢見るシャンソン人形」は言わずと知れたフランス・ギャルの代表曲。1965年に世界中で大ヒットした、セルジュ・ゲンズブール作のあの曲だ。ミッシェル・ポルナレフやシルヴィ・バルタンの懐かしいフレンチ・ポップスがCMで使われている昨今、話題のカヴァーになりそうだ。
槇原敬之とフランス・ギャル。以前にディズニー・アニメの日本語版テーマ曲を歌ったり、ライヴではカーペンターズ・メドレーをバッチリ決めちゃってくれたりもしている彼女。このセレクトの幅の広さは結局、彼女の素直な歌心が触発された結果生まれたものであろう。歌いたいからこうなった的な、これまた真っ直ぐな気持ちの表れなんだと思う。
最近の女性ヴォーカル・シーンは隆盛のように見えて、これみよがしなスキルを披露するだけだったり、一発芸的インパクトのみの音楽性を個性的という表現にすり替えて売り出されている場合が多いのが実状だ。少なくとも僕は、そこに歌心が希薄のよう見える。松本英子が以前「Squall」をレコーディングした時、作曲を担当した福山雅治が彼女の歌声を聴いて「やはり歌は心なんだね」と納得したというエピソードを読んだことがある。この曲のたくさんのシンガー候補者の中から彼女が選ばれたこと、その結果大ヒットを記録したことは、彼女の歌に人の心を打つ"歌心"が確実に存在していることの証なのだろう。そしてカヴァー曲を収録した本作の中にも、その歌心はしっかりと息づいているのだ。

Text by 高瀬康一(編集部)

『今年の冬』
 松本英子-J.jpg




Maxi Single
BMGファンハウス
BVCS-29607
¥1,000(税抜)
2003年1月8日発売

槇原敬之の隠れた名曲「今年の冬」、フランス・ギャルの「夢見るシャンソン人形」を収録したカヴァーソング・マキシ・シングル。全く違うタイプの楽曲を、武部聡志のプロデュースにより洒落たウィンター・コンピとしてまとめあげている。「夢見るシャンソン人形」は「スズキMRワゴン」のCMソングとしてオン・エア中。

【松本英子 Official Website】http://www.eikomatsumoto.com/

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