平井堅

希望も絶望も欲望も、全て受けとめた上での強さと優しさ…。
平井堅、30歳の人生観を注ぎ込んだ
入魂の5thアルバム『LIFE is...』をリリース！

（初出『Groovin'』2003年1月25日号）

　『ライフ・イズ・ビューティフル』『ワンダフルライフ』『バラ色の人生』…。タイトルに「人生とは…」と銘打った映画や楽曲は多い。『人生は野菜スープ』なんてワケわからんものもあったりして、古今東西、人生という大きな謎をテーマに様々な名答・珍答がなされてきた。大抵が、ああ人生ってやっぱり素晴らしい的な、幸せいっぱいのエンディングに落ち着くわけだが、人生の重みや不可解さをある程度経験してきた者にとっては、ご都合主義のハッピー・エンドにリアルさを感じないのも事実。満たされぬ希望や矛盾や空しさや孤独なんてあってあたり前で、それを全部受けとめた上でいかに輝けるか、幸せになれるかというテーマが見えて初めて"今"という時代に機能する気がする。
　そういう意味でも、去年ヒットした曲の中で圧倒的にリアルに響いたのが平井堅の「Ring」じゃないだろうか。平井自身が書いた詞からは、病んだ心を持つ人や社会から目を背けるのではなく、また癒し系的軽さに流されるわけでもなく、現実を真っ直ぐ見据えようとする覚悟と、そこから生まれる優しい眼差しが感じられた。更にはキリンジやMISIA等のプロデュース・ワークで知られる冨田恵一の超メロウなアレンジが、スタンダードになる風格を決定付けたのも大きい。社会に対しての危機感、それゆえの希望を歌う時に、最も有効なのは切ない程のメロウさだということは、マーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイン・オン」やサッチモの「この素晴らしき世界」といった例を持ち出すまでもなく言えることだが、そんな稀代の名曲と比べても遜色のない存在感を放っている。
　さてその「Ring」や、童謡のカヴァーとしては記録的なヒットで話題となった「大きな古時計」を含む、通算5枚目のオリジナル・アルバムが発売された。もちろん昨年早々にヒットしたBabyfaceとのコラボによるシングル「Missin' you〜It will break my heart」や、初夏の話題をかっさらったファンキー・ハッピー・シングル「Strawberry Sex」も収録。その他にもフォー・ビートのアッパー・ジャズ・ナンバー「世界で一番君が好き？」でイカれた愛の告白をしたかと思えば、歌謡曲風なメロディ&詞の「メモリーズ」では帰らぬ愛の日々を想い出し、表題曲では30歳という等身大の男の"今"を切々と歌う、といった具合に様々な人生が綴られていく。そしてラストは「大きな古時計」だ。最後に今までの人生を振り返るように配置されたこの曲の意味はとてつもなく大きく、深い。
　なにせアルバム・タイトルが『LIEE is...』なのだ。...のところはそれぞれが考えるべきだろう。そもそも人生なんて単語1つで言い表せるほど単純じゃないのだ。とりあえずここには12曲の人生が収録されている。希望や絶望や欲望も全て詰まっている。だからこそのリアルさがそこにはある。

Text by 高瀬康一（編集部）