つじあやの

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つじあやの

ミニ・アルバム『恋する眼鏡』が好評のつじあやのが、
スマッシュ・ヒットとなった「風になる」に続くニュー・シングルをリリース。
3分54秒の哀しく切ないショート・ストーリーが、あなたを束の間の感傷に浸らせてくれます。

(初出『Groovin'』2003年1月25日号)

つじあやの-A.jpg 『恋する眼鏡』…昨年12月に発売されたつじあやののミニ・アルバムだが、そのタイトルを聞いて思わず膝を打ったのは私だけではないだろう。彼女のアイコン的存在となっている「眼鏡」と「ラヴ・ソング」を組み合わせた秀逸なコピーであることはもちろんだが、何よりこれ、彼女の歌の本質をずばりと言い表してはいないだろうか。
 つじあやののレンズ、つまりメロディや詞、ウクレレといった音楽的なフィルターを通して描かれた世界は天然色で彩られ、まるで絵本のように柔和な色合いを見せる。だがそこには、息を飲むほどのリアルな遠近感も同時に存在している。例えば、彼女の楽曲における歌声とウクレレの印象はとても強い。そうしたアンプラグドな音は人間の感情の動きを表現するには持ってこいだし、実際その部分がクローズ・アップされがちだ。しかし曲全体に目をやると、その後ろには、遠くに流れていくひとすじの雲さえも丁寧に描きこまれた、奥行きと広がりのある写実画のような精緻なサウンドが存在し、完璧な背景の役割を果たしているのだ。そして、そんな楽曲世界の中で恋をし、一喜一憂する"君"と"僕"の姿は、いつの間にか私たちの日常の1コマや大切な思い出のシーンと二重写しになり、強く心に焼き付いてしまう。つまり、彼女の楽曲の存在自体が"恋する眼鏡"であり、そのレンズを通して私たちの周りの風景を覗くと、どこにでもある平凡な恋愛事情だって、まるで映画のワンシーンのように輝いて見えてくるのだ。そんなまったくもって不思議で素敵な"恋する眼鏡"を愛する者の1人として、この新作の到着は実に喜ばしいものである。
 さて、その待望のシングル『雨音』も、やはり彼女の眼鏡の素晴らしさに嘆息せざるを得ない作品に仕上がった。哀しく切なく、しかし淡々と流れていくミディアム・スロー・チューンの今作だが、その中には、ショート・フィルムを見ているかのような映像的な要素と、恋愛ならではのドラマ性がしっかりと含まれている。それゆえ、まさに弾き「語る」といったモノローグ的な印象の前半から、ストリングスやヴィブラフォンが導入され、歌詞の中では押しつぶされそうな哀しみを抱え、やっぱり君を愛し続けるしかないんだ…と"僕"の想いがあふれ出してしまう中間部からサビまで、ぐいっと一気に聴かせてしまう。そうした彼女のストーリー・テラー的な才能はもちろん、音を使って場面描写をするという点では、さながら映画監督のようなプロデュース能力までもを垣間見せる楽曲ではないだろうか。
 そして今作の聴きどころをもうひとつ。この曲の中で"君"を失って呆然自失となった"僕"は、孤独と悲しみに取り囲まれながらも、冷たい雨がそぼ降る中、変わらない愛をそっと胸に抱き、ひとりで歩き始めるのだが、この悲しく切ない場面でつま弾かれるウクレレの音色にぜひ注目してみてほしい。それはこの楽器特有の牧歌的な部分を残しつつも、私たちが期待する、ハッピーで乾いたあの感じとは異なる印象を与えている。まるで深い悲しみを携えているかのようにポロンポロンとこぼれるその音色は、やはり雨音を表現しているのだろうか。いや、僕の頬を伝い落ちていった涙なのかもしれない。ついそんな感傷に浸ってしまう。
 今作で彼女が作り出した音楽というレンズを通し、リスナーの胸にはそれぞれのストーリーが浮かび上がってくるだろう。ちょっぴり哀しいお話だけに、涙の覚悟も必要かもしれない。かくいう私も、事の詳細は控えるが、リアルに甦る過去のワンシーンに胸がつまる思いだった。恐るべし、恋する眼鏡!

Text by 鮎川夕子(編集部)

『雨音』
つじあやの-J.jpg




Maxi Single
ビクターエンタテインメント
VICL-35448
発売中
¥1,100(税抜)

映画「猫の恩返し」の主題歌としてスマッシュ・ヒットした「風になる」、ミニ・アルバム『恋する眼鏡』と順調なリリースを続けるつじあやののニュー・シングル。メロディ、詞はもちろん、いつもとは違い、切なく哀しい印象を与えるウクレレの音色に思わず涙。初回盤のみ「恋するレシピ第二集〜バレンタイン篇〜」付き。

【つじあやの official Website】http://www.tsujiayano.com/

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