Chara

ARTIST PICK UP

Chara

満たされた生活の中で見つけた、様々なモノに対しての何気ない愛情。
Charaのニュー・アルバム『夜明けまえ』は、
彼女の素顔が全編に滲みでている必聴アルバム!

(初出『Groovin'』2003年3月25日号)

Chara-A.jpg 恋人たちの情景や男女間の愛について歌ってきたアーティストが、結婚し、子供が生まれ家族を持つと、もっと普遍的な愛を表現するようになることはよくあることだ。"君"とか"僕"とかいった言葉は消え、男女という境界も見えにくくなり、例えば道端に咲く花にさえ、ひいては地球そのものに対しての愛情までをも感じさせることがある。愛すべき対象が異性からモノ全てに変わっていき、そこに慈愛に似た感情が生まれるというか。好きなアーティストがそのような作品を出すと、まだ男女間の恋愛ごとが重要事項である独身の僕などは、次のステージに上がってしまった彼らに対して置いてきぼりをくったような複雑な気持ちに駆られることもあるのだが、そんな大きな優しさに満ちた詞や曲を聴くとやっぱりものすごく穏やかな気持ちになるのだ。
 Charaの8枚目のオリジナル・アルバム『夜明けまえ』は、まさしくそんな穏やかな気持ちにさせてくれる作品だ。91年のデビュー以来一貫して"愛"を歌ってきた彼女は、ここ最近リリースする作品はますますそんな普遍的で大きな愛を歌うようになってきた気がする。本作は彼女自身が全曲を作詞・作曲をしたという意味でも、すごくプライベートな匂いも漂っているアルバムだが、プライベートとは言っても詳細に感情を綴るといった日記風のものではなく、シンプルで抽象的なイメージを繋げて個人的な感情を表現していくといった感じだ。その感情とはやはり愛。しかしその愛の対象は「街」とか「海」といった自然や風景だったり、はたまた「息子」とか「絵本」といった日常だったりする。
 サウンドのことにも触れてみよう。基本的には彼女が鍵盤で書いたものはホッピー神山が、ギターで作ったものは清水ひろたかがプロデュースを担当している。曲によっては屋敷豪太や、白根賢一や高桑圭といったGreat3のメンバーも参加しており、王道ロックやメロウなソウル、エレクトロニカといった多彩な音作りが楽しめる。基本的にはアルバムに先行されてシングル発売された「みえるわ」に代表される、エレクトロニックな響きの中に垣間見える優しくオーガニックな表情(これは現在最先端のセンスを持っているアーティストによく見られるサウンドのような気がする)が全体を支配している。そんな音に対する拘りは、例えば「Beautiful Day」の途中で展開されるコーラス部分の、息を飲むほどの神秘的な美しさにも表れている。個人的にイチオシの曲は、チープなリズム・ボックスにまるでシルヴィアの「Pillow Talk」のような囁きが艶めかしいウルトラ・メロウ・ソウル「心にこない」だ。
 このアルバムを聴いて思ったのは、おそらく彼女は炊事や散歩や子育てや曲作りといった「生活」を、本当に満たされた愛の中で送っているんだろうなということ。そんな生活の中から生まれてきた愛すべきも何気ない素材を、あの独特の歌声と新しいサウンドでまったくもって魅力的に料理している。その美味をぜひご賞味して頂きたい。

Text by 高瀬康一(編集部)

『夜明けまえ』
Chara-J.jpg




CD
Epic Records
ESCL-2394
発売中
¥2,913(税抜)

「初恋」「みえるわ」のヒット・シングルを含む8枚目のオリジナル・アルバム。彼女自身が全曲を作詞・作曲、楽器もピアノやオルガンの他にギター、ドラムも本人が担当している曲があり、音楽的な意味でももっともCharaを身近に感じられる作品となっている。

【Chara 公式サイト】http://charaweb.net/

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