長渕剛

約1年ぶりとなるニュー・シングル「しあわせになろうよ」、そしてオリジナル・アルバムとしては
なんと約2年ぶりとなる『Keep On Fighting』を連続リリース！大いなる共感に抱かれるのもよし、
自分の人生を投影するのもよし。言うまでもなく、どちらも超強力盤だ！

（初出『Groovin'』2003年4月25日号）

　某国による武力行使がはじまった翌日にこの原稿を依頼されたとき、「静かなるアフガン」を思い出さずにはいられなかった。次いで「長渕剛はこの戦争をどう受け止めているのだろう」とついつい考え込んでしまった。
　人間、現実の厳しさや歪みみたいなものに直面すると、暗澹たる気持ちや漠然とした不安感にとらわれるもの。それを払拭…いや、スカッと蹴っ飛ばしてくれる力強い頼もしさが長渕剛にはある。だからこそ彼の曲は人を惹きつけてやまないのだろうし、その歌に心の拠り所を求める人が数多くいる。
　先に触れた「静かなるアフガン」以来、約1年ぶりとなるニュー・シングル「しあわせになろうよ」は、ゆったりとしたスケール感をそなえたバラード・ナンバー。アカペラではじまり、その上にピアノやストリングス・サウンドが優しく重ねられていく、ドラマティックな展開の「大きな」曲だ。
　そして、「しあわせになろうよ」を含む全10曲を収録したニュー・アルバム『Keep On Fighting』は、オリジナル・アルバムとしてはなんと約2年ぶりのリリース。「満を持して」という言葉が陳腐に聞こえてしまいそうなほど、素晴らしく、そして奥深い作品に仕上がっている。その内容はというと、字数が許せば1曲1曲その詳細をこまかに書きたいほど、とにかくバラエティー豊か！アコースティック・ヒップホップとでも言うべき表題曲「Keep On Fighting」のような、新鮮なエッセンスに満ちた曲があるかと思えば、「LANIKAI」のようなレゲエ・テイストの曲やカントリーチックなアップ・ナンバー「頑張れ！」、それに故郷・鹿児島の霊山をテーマにした力強い楽曲「桜島-SAKURAJIMA-」などもあり、彼の内包する音楽性の広さに今更ながらに驚かされるのは必至だ。
　それにしても、長渕剛の「声」と「言葉」の持つ圧倒的な存在感はどうだろう！歌詞の乗せ方から感情の込め方に至るまで、そのすべてが強烈なオリジナリティーの塊であるのはもちろん、語るように、叫ぶように放たれる剥き出しの「思い」がストレートに、あまりにもストレートにこちらの心を揺さぶり倒してくるのである。そのエネルギーは、普段は理性だとか社会性だとかに覆われて眠っている大切な何かを目覚めさせ、はかり知れないほど深い共鳴を呼び起こすのだ。
　大いなる共感に抱かれるのもよし、自分の人生を投影するのもよし。長渕剛その人そのままに、たぎる思いと限りない包容力を併せ持った本作は、シングル、アルバム共に、言うまでもなく超強力盤だ。

Text by 秋野 櫻