ブラー

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ブラー

おかえり、デーモン。おかえり、アレックス。おかえり、デイヴ。おかえりなさい、ブラー。
グレアム脱退は泣けたけど、「これまでで最高のサウンド」、
ほんとにそう思うよ。ありがとう。

(初出『Groovin'』2003年4月25日号)

ブラー-A.jpg この音源が手元に届いた日、それはブッシュがイラクに最後通告をした翌日だった。「明日には戦争が始まるかもしれない」という意識が頭の中にあった日にこれを聴いた。シンプルな音と漂うようなデーモンの声、静かにニュー・アルバム『THINK TANK』の幕が開く。そして一夜明けて、トマホークはイラクに打ち込まれた。
 あなたはアナログ盤として少量流通したという、彼らの「DON'T BOMB WHEN YOU'RE THE BOMB」という曲を聴いただろうか。「お前が爆弾だというなら爆撃するな」と歌い、中東を思わせる旋律が加わる。これからの世界を予感したに違いないアプローチだった。そう、そしてこのアルバムにもアラブ音階が多用されている。しかし、世界情勢とは全く別のところでオーガニックなリズムを純粋に心地よく感じることもできる。デーモンがブラーを離れて制作した『MALI MUSIC』(西アフリカ・マリ共和国にて現地録音した作品)に起因する部分も大きい。当時デーモンは「西洋人が自分たちの文化こそ正当だと思っているのには飽き飽きしてるんだ」と語っていた。そして、今作も随所に多文化的要素が見え隠れする。つまり「文化・音楽的平等=平和」ってデーモンは考えている。恥ずかしいくらい真っ直ぐだけど、その気持ちに賛成しよう。時折目にするニュース映像で、バクダッドから火柱が上がる度にそう思えた。
今回最も興味が向けられるのは「グレアム無しのブラーについて」だ。幼い頃から2人で1人だった、デーモンとグレアムは別々になった。バンドの中で精神的に不安定だったグレアムを私はとても愛しく思っていたし、彼のギターもたまらなく好きだった。だから、今回のアルバムは音を聴くまで不安でしょうがなかった。グレアムの抜けた穴が大きすぎるんじゃないか、片腕をもがれて失墜するんじゃないかと。けれど、届けられたのは最高の作品。『PARKLIFE』に匹敵するほどの。ノーマン・クックがプロデュースした「CRAZY BEAT」の突き抜けたサウンドは文句なし、かつて対立していた者同士が作ったとは思えない好トラック。穏やかな曲が多い(デーモンの声が子守唄みたいに柔らかい)中で、物凄い一撃は中近東なメロディから一気に疾走する「WE'VE GOT A FILE ON YOU」。デーモンは「軽率に聞こえるかもしれないけど…」と前置きした上で、「グレアムが抜けたことでバンドにあった保守性がなくなった」と某誌で語っている。私が落ち込むずっと前に、バンドはシフト・チェンジしていた。「come back again」とか「君と一緒にいたいけれど/僕はやっぱりここに残ることにした」と歌うデーモンは強くて、やはりブラーは輝いている。ちょっと寂しいけれど、笑っていよう。
 最後に、アルバムの制作に入った時はまだ、ごく一部の人だけが中東の危機を察していたに過ぎなかったという。今はもう誰もが危機を目の当たりにしている。なのに、イラク攻撃や文化圏の差異を嘆いたこのアルバムをブッシュが耳にすることはおそらくないだろう。それをもどかしくも思うが、せめて聴いた人たちだけは平和っていうことを考えてみてもいいんじゃないかな、なんて堅苦しいかな。

Text by 丸山雅代(スーパーモールいせさき店)

『THINK TANK』
ブラー-J.jpg




CD
東芝EMI
TOCP-66153
発売中
¥2,427(税抜)

制作中にグレアムが脱退するという危機を乗り越えたブラーの4年振りの新作。Gorillazの活動で触発されたデーモンの新たな方向性を提示するアルバム。ノーマン・クックがプロデュースしたリード・トラックに大満足。1曲のみグレアムが参加、あとはデーモンが弾いたらしい。先着特典はポスター。

【ブラー 日本オフィシャルサイト】http://www.emimusic.jp/artist/blur/

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