山下達郎

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山下達郎

遂に2年ぶりとなる新曲が登場。
しかも名曲「2000トンの雨」の2003 NEW VOCAL REMIXとの両A面扱いで!
圧倒的な"歌"の存在感を、心で感じ取って欲しい。

(初出『Groovin'』2003年5月25日号)

山下達郎-A.jpg それは何気なくTVのワイド・ショーを見ていたときのこと。番組の中でリポーターが、6月に発売される山口百恵のCD BOXについて伝えていた。彼女の説明によれば、当初このBOXを予約購入をするユーザー層は圧倒的に30代より上の男性と予想されていたが、実際には意外なことに女性層、しかも20代前半のOLが目立ったとのこと。そしてその説明に対し、コメンテーターの1人が「それは今の音楽にリアリティが少なく、歌手があまりにも身近な存在に成り下がってしまったがために、その反動で山口百恵のような強さと近寄り難いオーラを持った歌手に憧れるためだ。男に媚びを売らない自立した女性の象徴として、彼女を支持しているのかも知れない」という主旨の発言をしていた。寝ぼけ眼にこのやり取りを聞いていた僕も、これにはちょっと興味を抱いた。思い起こしてみれば、確かに昔の歌手の存在感は、今のそれとは比べものにならない気がする。言い換えれば、歌手やミュージシャンといった表現者の側もリスナーに近寄りすぎる戦略を取ったため、それは誰でも表現者の立場に立てるような幻想を抱かせ、そんなアーティストの増加が、結果的に音楽界全体のオーラをも失わせてしまったとも言えるのではないか。
 さて、そこで考えてみた。では"近寄り難いオーラ"や、"存在感"とは、一体何をベースとして発生するものなのだろうか?そう考えたとき、真っ先に浮かんだのが"声の独自性"だ。つまり簡単に言えば、聴いただけで誰が歌っているのか分かるということ。加えてその歌が圧倒的な"歌唱力"をもって我々の耳に届くこと。そんな個性ある本物の歌こそが、"存在感"や"オーラ"の源になっていることは、疑う余地もない。つまり誰にも真似できない歌唱力と声質を持つことこそが、素晴らしい歌手としての絶対条件と言えるだろう。
 こんなことを考えるとき、真っ先に僕の頭に浮かぶのは、やはり山下達郎の存在だ。彼の歌声は、流れ出た瞬間に空気の流れを変えるだけのパワーと、独特の色彩感をたたえている。最近はドラマの主題歌として彼の往年の名曲「RIDE ON TIME」が使用されたり、あるいはRCA/AIRイヤーズのアルバムや『レアリティーズ』の発売といった感じで話題には事欠かなかったが、そんな中、6月には待望の新曲「フェニックス」が遂に発表されることとなった。新曲としては2年ぶり、しかも両A面扱いで「2000トンの雨」の2003 NEW VOCAL REMIXを収録という、オールド・ファンにも嬉しい内容だ。「フェニックス」は、既にNHK総合テレビ「地球だい好き 環境新時代」(毎週土曜日 11:00〜11:29)のテーマ・ソングとしてO.A.されており、テレビ放送50周年事業の一環として始まったこの番組用に、新たに書き下ろされたもの。ミディアム・テンポの中に未来への子供達へのメッセージを込めた、彼らしい楽曲だ。そして「2000トンの雨」は、6月公開の映画『恋愛寫眞』(主演:広末涼子、松田龍平/監督:堤幸彦)の主題歌として使用される。この曲は元々78年のアルバム『GO AHEAD!』に収録されていたものだが、今回新たにヴォーカルをリテイクし甦った。この映画での起用は、何でも堤幸彦監督からの要望だったとか。いずれにせよ、この曲がまた新たな形で我々ファンの耳に届くことは、嬉しい限りだ。
 冒頭で歌手としての"存在感"や"オーラ"について触れたが、山下達郎の場合はソングライターとして、またサウンド・クリエイターとしての才能がそれに加わる訳であり、よって単なる歌手とはまた違った表現が可能になる。つまり歌のみならず詞やメロディ、サウンドも含めて、1つの楽曲をトータルな形でリスナーに提示できる訳だ。この新旧2作品「フェニックス/2000トンの雨」を続けて聴くことで、当然彼の中の変わらないスピリットやロック/ポップスに対する愛情、そしてこの25年間のミュージック・シーンの流れなど、様々なことが僕の頭をよぎる。そしてそこから感じるのは、やはり彼の作り出す音楽をずっと聴き続けてきて良かったということ。自分の中の価値判断の基準や、もっと大袈裟に言えば生き方、物事の考え方、そういった部分にまで山下達郎の影響があることを、僕は改めて悟った。自分のペースを崩さずに時代を生きていくのは、大変なことだ。しかし確固たるスタイルと信念を持って進めば、いつかそれが強さや存在感に変わるもの。だから山下達郎の音楽は、今最も格好よく輝いている。

Text by 土橋一夫(編集部)

2000トンの雨(2003 NEW VOCAL REMIX)/フェニックス』
山下達郎-J.jpg




Maxi Single
ワーナーミュージック・ジャパン
WPCL-7003
6月11日発売
¥1,000(税抜)

「2000トンの雨」は新たにVoをリテイクした2003 NEW VOCAL REMIXで、映画『恋愛寫眞』主題歌。また2年ぶりの新曲「フェニックス」は彼らしいミディアム・テンポの美しい曲で、NHK総合テレビ「地球だい好き 環境新時代」テーマ・ソングとしてO.A.中。それぞれの別ヴァージョンやカラオケも収録。

【山下達郎 オフィシャルサイト】http://www.smile-co.jp/tats/

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