久里夢

独特の甘く切ない色合いを紡ぎ出す声の質感は、将来性抜群！
弱冠17才のニューカマー、久里夢（くりむ）は、
シンガーとしての本格的な第一歩を今、踏み出したばかりだ。

（初出『Groovin'』2003年5月25日号）

　…いやはや、イントロを聴いただけで完全にノックアウトさせられてしまった。自身の奏でる軽快なピアノの旋律としなやかなストリングス・サウンド、それらが縦横に絡んで醸し出される深い奥行き。その土台では、うごめくベースと乾いたスネアの音が螺旋状に拡がり行く躍動感を刻む。そして、爽やかなそよ風のように吹き抜けていく歌い手のコーラスが合間に聴こえるたびに「なんなのだろう、この心地よさは！」という驚きが心の中でガンガン更新されていくのだ。その驚きは曲が進むにつれて多大な期待へと変化し、聴き終えてみればその期待は、大きな感動へと姿を変えていた。
　本作「Breath」でシンガーとしての本格的な第一歩を踏みだした、弱冠17才のニューカマー、久里夢（くりむ）。若いからといってナメてかかってはいけない。何故なら、彼女の声には、17才らしからぬ豊かな輪郭がすでにしっかりと備わっているのだから。
　憂いを含んだ大人っぽさを感じさせる、粒の揃った丸みのある声。加えて、要所に垣間見える等身大のあどけなさ。その、一見アンバランスに思える声の質感が、独特の甘く切ない色合いを紡ぎ出していく。そう、「声に表情がある」と言うのがいちばんピッタリくるかもしれない。だからこそ彼女の歌は、聴き手の心に新鮮かつ深い趣きを与え、心地良さにも似た感動をもたらしてくれるのだろう。
　そうした彼女の持ち味が、本作に十二分に詰め込まれているのは言うまでもないこと。冒頭にも書いた通り、イントロから抜群のセンスを放つリード曲「Breath」、ファンクチック&ジャジーなエッセンスが光るカップリング曲「守りたい…」、そして重めのスローナンバー「確信」にいたるまで、楽曲のテイストは違えど、どれもメロディー、展開、サウンドワーク共々、彼女のヴォーカルをより際立たせる秀作ばかりだ。
　聴き手を惹きつけてやまない彼女の魅力は、まさにその声にある。それを才能を呼ぶのなら、これほど才能豊かなアーティストと出会えたことに感謝せずにはいられない。嘘でもなんでもなく、心からそう思う。わかりやすさだけが身上の、まがいものの個性がまかり通る昨今だからこそ、じっくりと大切に見守っていきたい期待のシンガーだ。

Text by 秋野 櫻