元ちとせ

終わりゆく夏を惜しむかのように元ちとせの歌声があなたに届きます。
話題のCMソング「いつか風になる日」と待望のセカンド・アルバム『ノマド・ソウル』は、
夜空から降り注ぐような彼女の歌声にたっぷり浸れる1枚。

（初出『Groovin'』2003年8月25日号）

　夏になるとなぜか旅に出たくなる。学生時代には、夏休みなると毎年合宿と称してどこかへ出かけていたので、私の中では「夏＝旅の季節」という図式が出来上がっているが、最近では人ごみが苦手なことや友人と休みが合わないことを理由にしてなかなか旅に出る機会も減ってしまった。そんな私の「旅行したいモード」に火をつけたTV-CMがある。それは竹野内 豊出演の携帯電話「ムービーau 夏」シリーズ。テレビに映る美しい空や海を見ながら「あぁ旅に出たい」とつぶやく心をあおるように、バックに流れる郷愁を誘う歌声。声の主は、ひとたび聴けば忘れられない歌声をもつシンガー、元ちとせ。彼女の歌うこのCMの楽曲「いつか風になる日」が多くの問い合わせに応えて遂にシングル・リリースされた。作詞／作曲はCOILの岡本定義、編曲は「image」シリーズ等でおなじみの羽毛田丈史。元ちとせ自身も三味線を弾いていることで話題の曲である。「還らぬ日の想いを胸に抱く季節」である切ない夏の風を感じさせる歌詞とゆるやかなメロディーが、元ちとせの母性を感じる歌声と解けこみ、心地よい癒しの1曲といった感じ。カップリング曲の「散歩のススメ」は、元ちとせの楽曲ではちょっと珍しい軽快なアコースティック・ナンバー。曲の中に登場する「更紗のワンピース」「たて笛の音」「駄菓子屋」という言葉から、こちらも何となく懐かしさを感じさせる曲に仕上がっている。
　この「いつか風になる日」を含む元ちとせのセカンド・アルバム『ノマド・ソウル』が9/3に発売される。ヒット・シングル「千の夜と千の昼」「この街」を含む収録曲10曲には、デビュー・シングル「ワダツミの木」から彼女の曲を手がけている上田 現を中心に山崎まさよし、あがた森魚、松任谷由実などの楽曲も取り入れた意欲作。アルバム・タイトルが示す通り（ノマド・ソウルとは「さすらい人・永遠の旅人の魂」という意味だそう）全体を包むのは、元ちとせの歌声が時空を越えて世界中の空から降り注いでくるような不思議な感覚。オーロラで白く輝く北欧の夜空（「オーロラの空から見つめている」）から彼女の故郷奄美の空（「いつか風になる日」）、ネオン輝く東京の空（「この街」）など様々な夜が彼女の歌声を通して伝わってくる。元ちとせ風ブルースといった感じの「月齢17.4」、彼女の声を通すとまた新た懐かしさを感じる、あがた森魚の名曲「百合コレクション」。広大な草原の風に乗ってはるか彼方から彼女の歌声が聞こえてきそうなユーミン書き下ろしの「ウルガの丘」など、従来の元ちとせからは想像も出来ない様々な感性、表現豊かな歌声がアルバム『ノマド・ソウル』には詰まっているのだ。
　初の全国ツアー"はじめまして"もアルバム発売に合わせてスタートさせる彼女。元ちとせにとって今年の夏はまだまだ続くのである。

Text by 大野裕子（パルシェ店）