ザ・ビートルズ

SPECIAL SELECTION

ザ・ビートルズ

発表から30年以上の時を超え、今真の姿をさらけだす『レット・イット・ビー』。
"裸のレット・イット・ビー"は、21世紀に何を語るのか?
まだまだビートルズは終わらない!

(初出『Groovin'』2003年11月25日号)

ザ・ビートルズ-A.jpg 嬉しい。またビートルズを聴くことができる。これを喜ばずして何を喜べというのだろう。しかし今回は『レット・イット・ビー』である。それも"裸のレット・イット・ビー"ときたもんだ。なぜ『レット・イット・ビー』だけが"ネイキッド"として蘇らなければならなかったのかについては、やはり多少の説明が必要になってくると思う。確かにビートルズのファンは星の数ほどいるだろうけれど、その人達すべてが西新宿の特別区を徘徊し"ゲット・バック・セッション"のブートレグを聴きあさるようなディープなファンではないだろうから。
 しかしながら"ネイキッド"の根幹にかかわる30年以上前の『レット・イット・ビー』成立までの流れを語っていると、とても与えられた字数では収まりがつかなくなってくる。よってものすごくアバウトな物言いになってしまうのを覚悟で話を進めると、1969年1月時点でビートルズの分裂への流れは決定的であり、それは回避できない状況にまで達しようとしていた。けれどビートルズとしての活動に最も固執していたポール・マッカートニーがライヴ・バンドとしての原点回帰を訴えて、彼等は1969年1月2日からのトゥイッケナム・フィルム・スタジオでのセッション、そしてそれが頓挫した後1月31日まで続くアップル・スタジオでのセッション(この2ヶ所で行われたのが所謂"ゲット・バック・セッション")において膨大な量のテープとフィルムを残す事になる。ところが話はここで終わらない。事実上のプロデューサーとしてテープの編集に当たったグリン・ジョンズによる2度にわたるミックスは放棄され、1年以上ほったらかしにされた"ゲット・バック"の音は、外部から呼び込まれたフィル・スペクターの手によってまとめられ、現時点で私達が『レット・イット・ビー』として認知しているアルバムとなって発表されたのである。
 前口上が長くなってしまったけど、正直言えば私はフィル・スペクター・ヴァージョンの『レット・イット・ビー』を嫌いではない。「I Dig A Pygmy〜」という語りから始まるあの感じは寒々としたトゥイッケナムの雰囲気を想像させるし、中途半端な「ディグ・イット」や「マギー・メイ」は混沌としたアルバムの背景を垣間見せる。また、タイトル曲のジョージのリード・ギターだってシングル・ヴァージョンより好きだったりもした。けれどよく知られた「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」の逸話が象徴するように、現行のアルバムは本来あの時のビートルズが目指したものとは違った形で世に出てしまった。フィル・スペクターというウォール・オブ・サウンドの鬼を起用した時点で、当初のコンセプトであったシンプルな原点回帰というお題目は消失してしまったわけだから。
 しかし30年以上も横たわった大きな溝を埋めるように、ようやく産み落とされた"ネイキッド"。そこには当時彼等が本当に目指した音像が刻まれているはずだ。スピーカーから流れ出す音に、きっと私たちは確信するに違いない。まだまだビートルズが終わらないという事を。

Text by 植木一成

『レット・イット・ビー...ネイキッド』
ビートルズ-J.jpg




東芝EMI
発売中
CD
TOCP-67300
¥2,857(税抜)

オリジナル版とは数曲入れ替わったニュー・ヴァージョン。さらにアルバム制作時のテープから貴重な音源を収録したボーナス・ディスク付き。しかしハイライトは何と言っても、当時ポールが思い描いた音像通りに蘇る「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」だ!

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