中島みゆき

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中島みゆき

当代きっての「歌うたい」は、またもや傑作を生み出してしまった…。
日本屈指の「表現者」、中島みゆきのニュー・アルバム『恋文』が遂に完成!
本作はまさしく、聴き手を深い感銘へと導く最高の1枚だ!

(初出『Groovin'』2003年11月25日号)

中島みゆき-A.jpg 数年振りに連続ドラマを全部観た。フジテレビ系「Dr.コトー診療所」がそれだ。ドラマをほとんど観ないわたしにとって、これはまさしく快挙である。一体、何がそうさせたのだろう?ストーリーや演出、俳優陣の素晴らしさもさることながら、エンディングで流れていたテーマ・ソング「銀の龍の背に乗って」の力強い響きにすっかり魅了されてしまっていたことも大きな理由のひとつなのではないかと思う。心の底から突き上げてくるような、強力なエネルギーを放つ"かの曲"は、ドラマにとって間違いなく必要不可欠の存在であった。歌い手である中島みゆきの豊潤な世界観が、ストーリー全体を見事に象徴していたのである。この曲で幕を開ける本作『恋文』を聴いた瞬間、ドラマの感動が胸の内に鮮やかに蘇ってきただけでなく、涙腺までもが緩やかにほどけてしまったほどに。
 約1年振り、通算31作目のオリジナル・アルバムとなる本作は、ヒット・シングル「銀の龍の背に乗って」、そのカップリング曲でありアルバム・タイトルにもなっている「恋文」、そして先の「Dr.コトー診療所」の挿入歌として書き下ろされ、柴咲コウが歌った「思い出だけではつらすぎる」のセルフ・カバー・ヴァージョンを含む全10曲で構成。シンガー・ソングライター、中島みゆきが日本屈指の「表現者」であることを、改めて認識せずにはいられない超強力盤だ。
 本作の持ち味は…それこそ数え切れないほどあるのだが…敢えてひとつだけ挙げるとするならば、「強い意志」「恋」「幻想譚」の3つに大別される歌詞の世界なのではないかと思う。「強い意志」の代表格は言うまでもなく「銀の龍の背に乗って」。「恋」については、恋でも情でもない関係を男声コーラスとの掛け合いで描いた「恋とは限らない」、悲恋に泣く女心をしっとりとしたためた「寄り添う風」など、さまざまな形でいくつも歌い綴られている。「幻想譚」についても、重めのシャッフル曲「ミラージュ・ホテル」、日本的な「和」のフレーズをちりばめたスロー・ナンバー「月夜同舟」など、これまた異なるテイストの曲を披露。それらを巧みに歌い分ける独特のヴォーカル・スタイルと、ヴァリエーション豊かなサウンドのなせるワザなのだろう、本作を1度通して聴いてみただけでも、それぞれのタイトルと曲の印象が収録曲分10通り、心にくっきりと刻み込まれるのである。
 たった今「1度通して聴いてみただけでも」と書いたが、はっきり言って本作を「何の気なしに」聴き続けることは不可能に近い。名曲「地上の星」を思い浮かべてみて欲しい。時代の真実を突いた曲の世界に瞬時に引き込まれ、心の居住まいを正したくなるような思いにかられたりはしなかっただろうか。「強い意志」を歌った曲に限らず、たとえそれが「恋」「幻想的な世界」を描いたものであっても、きりりと筋の通った清冽な感覚が聴き手にもたらされることに相違はない。ゆえに、本作を「何の気なしに」聴きはじめたとしても、それぞれの曲に惹きつけられ、心の奥深くに寄っていたシワがピン、と引き伸ばされるような清々しい感覚をいつの間にか味わっている自分に、遅かれ早かれ気づくはずである。
 本作はまさしく、聴き手を深い感銘へと導く極上の1枚。中島みゆきという当代きっての「歌うたい」は、またもや傑作を生み出してしまった。

Text by 秋野 櫻

『恋文』
中島みゆき-J.jpg




ヤマハミュージックコミュニケーションズ
発売中
CD
YCCW-00044
¥3,000(税抜)

約1年振り、通算31作目となる待望のフル・アルバム。フジTV系ドラマ「Dr.コトー診療所」の主題歌「銀の龍の背に乗って」、その挿入歌であり柴咲コウが歌った「思い出だけではつらすぎる」のセルフ・カバーを含む全10曲で構成。中島みゆきが屈指の「表現者」であることを改めて認識させられる超強力盤だ!

【中島みゆき OFFICIAL SITE】http://www.miyuki.jp/

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