SPECIAL SELECTION
倉木麻衣
初のベスト・アルバムはノスタルジックでせつなくて、
でもなんとなく微笑ましくもある、そんな倉木麻衣の描く心象風景が凝縮された1枚。
走るのに疲れたら、少し立ち止まって、思いっきりアハハと笑ってみようよ。
(初出『Groovin'』2003年12月25日号)
ベスト・アルバム発売の話を聞き、あらためて過去にリリースされたシングル曲を聴き返してみた。「Love, Day After Tomorrow」のようなR&Bテイストの曲から「Stand Up」のようなアメリカン・ロック・テイストの曲、また、「Secret of my heart」に代表されるような倉木の真骨頂ともいえるミディアム・スロー・ナンバーまで、実に様々な楽曲を試みているが、やはり一貫しているテーマは人が誰でもある時期に通ってきた(またはその最中かもしれないが)であろう"せつなさ"の体現なのだと思う。歌詞には「Stay by my side」の"がんばってみるから…"のようにポジティヴに締めくくっている表現がよくみられる。しかしその前提にあるのは"せつなさ"や"あやうさ"である。
思春期の心象風景として、だれでも多感なあまり、混沌とした心情、現実とのギャップに悩むことはあったと思う。大人になるということはそれを乗り超えるというよりは、それを押し殺す(妥協する)ことで、ある種のゆるぎない自分を形成するものである。しかし、根本的にその悩みを解決していないがゆえに、大人になっても、ふとしたときに「あやうい感情」はよみがえり、僕たちの心を侵食する。だから、いくら歳を重ねても、思春期的な思いに共感できるのだろう。倉木の楽曲は、現実の生活の中で、走りつづけるために否応なく意識から消し去ってしまったその感情を意識下に呼び戻し、見つめなおすことを促しているのかもしれない。いわば「スタート地点の再確認」という訳である。それが僕たちには時として、ノスタルジックに映り、せつなさを感じさせるのである。
ノスタルジックとせつなさという意味では、倉木のデビューからのそれは(まるで時が止まったかのように)全く変わっておらず、常になんとなく物憂げでミステリアスな印象であるというのも手伝っていると思う。
中学の時とか、目立たないタイプなので全く話をしたことはないけれど、なんとなく気になる子がクラスにいたと思う。絶対に接点が生まれないにもかかわらず、いつか話ができるのではないか、と希望を持ちながらそれをささやかな糧にして学校に通っていたりする。結局、ほとんど言葉を交わすこともなく1年が経ってしまいそれっきりなのだが、何十年経っても、その当時なにげなく見せた笑顔が忘れられず心に残っていたりもする。そんなビター&スウィートな空想世界を感じさせるのも彼女のキャラクターであり、楽曲ともあいまってせつなさを増幅させるのである。
きっと、あのときクラスの一番後ろの席で、物憂げに校庭を眺めていた女の子が、「思いっきり、アハハと笑ってみようよ」とやさしく諭してくれた時、結局、若かりし頃も今も人の気持ちは変わらない、ということがほほえましくもあり、それでも前向きに行けばいつかは夢にたどり着ける、というスタート・ラインの気持ちをよみがえらせてくれるのかもしれない。
Text by 松本真一(小田原なるだ店)
『Wish You The Best』
GIZA studio
2004年1月1日発売
CD
GZCA-5047
¥2,913(税抜)
シングル14曲に加え、300万枚を超えた1stアルバムから「Delicious Way」、4thアルバムからはアジアの歌姫Yan-Ziとのデュエット曲「Tonight, I feel close to you」を収録した初のベスト・アルバム。全曲リマスタリング。
『My Reflection』
B-VISION
発売中
DVD(2枚組)
ONBD-7031〜2
¥4,700(税抜)
シングル「Reach for the sky」以降のクリップ・ダイジェスト&メイキングを収録したディスクと、2002年〜2003年に行われたライヴ・ツアーから選りすぐりのライヴ映像を収録した、2枚組スペシャル・パッケージ。
【倉木麻衣 Official Website】http://www.mai-kuraki.com/