中川晃教

血みどろの情熱、生死を賭けた激しい恋！ミュージカル界で目覚しい活躍振りを見せる
中川晃教が待望の新作を発表！新たなステージに辿り着いた早熟の天才が、
ラテンの調べにのせて「激情」を華麗に歌い上げる超力作だ！

（初出『Groovin'』2003年12月25日号）

　「スペイン」と聞いて、咄嗟に何を思い浮かべますか？ベッカムさまをはじめとするスーパー・スターが揃いぶみの「リーガ・エスパニョーラ」もいいけれど、やはりスペインといえば「闘牛」と「フラメンコ」でしょう！太陽の恵みに照らし出され眩しく光る大地。そこに生きる人々の情熱的なスピリットを凝縮し、かつ体現したもの、それが闘牛とフラメンコなのではないかと思う。かの地の男女の姿を象徴しているようにも見えるそれらは、東の果ての国に住むわたしをいつもクールに挑発する。「激情に身をまかせるのは素晴らしいこと。でも、あなたには到底できっこないでしょう？」……悔しいけれど実際その通りなので、「激情」への憧れを募らせつつも、慎ましく暮らす日々を選んでいる次第。だが、その憂さを晴らす強力な手立てを遂に見つけた。中川晃教の新作に身も心も委ねれば、「激情」ワールドの快感に思いきり浸ることができるのである！
　前作より実に約1年半振りのリリースとなる4thマキシ・シングルのタイトル『マタドール』はズバリ、「闘牛士」という意味。いくつか存在する「役」の中でも特に、剣を使って牛に最後のとどめを刺す花形の闘牛士を指す。その名の通り、本作はラテン・テイスト漲る情熱的なポップ・ナンバーに仕上がっているのである。
　幕開けはピアノの音色と自身のコーラスによるドラマティックなイントロ。中川のスペイン語を合図に曲は一気に熱を帯び、ラテン・ギターのアグレッシヴなストローク・サウンドがリズムを刻みはじめる。メロディアスな展開が喚起させるのは、真紅の薔薇の花。そして、繊細さと艶やかな響きを備えた力強いヴォーカルが、真紅の薔薇に燃えるような命を宿していく。砂混じりの汗、血みどろの情熱……生死を賭けた激しい恋を闘牛士とフラメンコ・ダンサーになぞらえて歌い描くその声は、聴き手の魂をいとも簡単に震わせる。そうして、ヴァーチャルではなくあくまでリアルな「激情」を呼び起こしていくのである。
　それにしても、曲全体から匂い立つこの豊かな表現力はどうだろう！デビュー・マキシ・シングル『I WILL GET YOUR KISS』がロング・セラーを記録した当時からその卓越した表現力には定評があったのだけれど、本作では明らかに、更に磨きがかかっているのである。これはやはり、昨年の秋に果たしたミュージカル・デビューの影響が大きいのではないだろうか。並みいる実力派俳優に囲まれての初主演ミュージカル「モーツァルト！」で文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞をはじめとする数々の栄誉を手中におさめ、以降も主役としてミュージカルの舞台に挑み続けている彼。演技という、シンガーとは異なる表現法を求められ、その期待に見事に応えた自信と経験は、彼に新たな可能性をもたらしただけでなく、シンガーとしての更なる成長をも促した。本作には、新生・中川晃教のそうした魅力があますところなく詰め込まれているのである。
　待望の2ndアルバムのリリースを2004年2月に、また宮本亜門氏演出の超大型ミュージカル「キャンディード」への主演が同年春に控えている彼。21歳になったばかりの早熟の天才は、アンダルシアに渦巻く「激情」を華麗に歌い上げるとともに、その向こうにある新たな「高み」をもしっかりと見据えているのだろう。

Text by 秋野 櫻