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 まずは話題の『VISITORS 20th Anniversary Edition』から。佐野元春が単身ニューヨークに渡り、当時現地で芽生えたばかりのヒップ・ホップやストリート・カルチャーを取り入れながら『VISITORS』を完成させたのは、早いものでちょうど20年前。そんなに時が経ったのかと信じられない気分だが、この20th Anniversary Editionは何とリマスタリングされたCDに、貴重映像収録のDVDが付された完全限定盤。しかもCDにはボーナス・トラックとして、当時12インチ・アナログでリリースされた「TONIGHT」「COMPLICATION SHAKE DOWN」「WILD ON THE STREET」のスペシャル・エクステンデッド・クラブ・ミックスを収録し、またDVDには"Visitors Tour '84-'85"から「COME SHINING」「COMPLICATION SHAKE DOWN」(共にRe-Mix Version '03)と、「TONIGHT」「NEW AGE」「COMPLICATION SHAKE DOWN」のPVなどが収められ、ファンには嬉しい内容となっている。82年に名盤『SOMEDAY』を、そして「ROCK&ROLL NIGHT」ツアーが終わりを迎えた83年3月、彼はステージで突然ニューヨーク行きを発表した。そしてシングル「グッドバイからはじめよう」と『No Damage』のリリース。彼の渡米宣言は、我々が「次はどんな作品が出来上がるのか?」という期待を持ち始めた矢先の、驚きの出来事だった。この時の事は今でも脳裏にハッキリと焼き付いている。そして彼のレギュラー番組「元春レイディオ・ショー」もニューヨークから毎週放送されることとなり、そこから発せられる新しいサウンドと萌芽したばかりのヒップ・ホップに、衝撃を受けたものだ。そして翌84年5月、この『VISITORS』がリリースされた。ここにはN.Y.でのカルチャーを彼らしいスタンスで見事に取り入れ、自身のスタイルで表現した新しい音が詰まっていた。ヒップ・ホップ全盛の現在にあっては、こういった過程があったことは既に忘れ去られた過去の出来事でしかないのかも知れないが、今回改めてこの『VISITORS 20th Anniversary Edition』を聴きながら、今の音楽シーンは一体どこから派生してどこに向かおうとしているのか?そんなことを頭の片隅で考えてしまった。新たな形で甦ったこの『VISITORS』は、まさにストリート・カルチャーがメイン・ストリームへと変化を始めたその時期を体現し、その影響を表現した初期の作品としても、とても重要だ。当時から彼を支持してきた僕らのような年代にも嬉しい限りだが、特に今回は若い今のリスナーにこそ聴いて欲しい、そう思った。
 そして次に取り上げるのは、今年の正月映画として公開され一部で大人気を博している「クリビアにおまかせ!」のイメージ・アルバム。O.S.T.は既にリリースされこちらも好評だが、本作はインディーズからメジャーまで幅広いアーティストの楽曲を収録した、ポップなアルバム。ちなみに収録アーティストは、instant cytron、Bobbie's Rockin' Chair、空気公団、バタアシ☆キング、ラリーパパ&カーネギーママ、caferon、GOMES THE HITMANなど12組の錚々たる顔ぶれ。映画同様カラフルなサウンドとポップでキュートな魅力が詰まった、ジェリー・ビーンズのような魅力的なコンピだ。3/初旬には大阪・東京にてイヴェントも!
 次はガラリと変わって、先日惜しまれつつ解散した元Cymbalsの歌姫、土岐麻子のソロ・デビュー・アルバム。しかも今回はジャズ・フォーマットでの意欲作で、山下達郎関係の仕事でも知られる父親である土岐英史(Sax)との共演(プロデュースも!)も大きな話題に。実際取り上げているのはジャズの曲ばかりという訳ではなく、例えばアースウィンド&ファイヤーの「September」とかティアーズ・フォー・フィアーズの「Everybody wants to rule the world」などをジャズ・テイストに味付けするなど、かなり実験的な内容も含んでいる。Cymbals時代の彼女とはまた違った一面を発見できると共に、癒し効果も抜群の彼女の「声」は同時に優しさをも運んでくる。
 そして最後に、一冊音楽書を。この『Light Mellow 和モノ 669』は、コンピCD"Light Mellow"シリーズを手がけた金澤寿和を中心としたLight Mellow Attendantsが、そのタイトル通りシティ・ポップスやJ-AORといった洋楽的センスを持つ日本の名盤にスポットを当て、セレクト&解説したもの。作品の持つテイストを今改めて聴いて判断し、傾向ごとにコーナー分けしてまとめたものだけに、これなら若いリスナーにも読みやすくサウンドの特徴や方向性を理解し易いだろう。シティ・ポップスという様なある意味曖昧な言い方が最近よく取り上げられているだけに、本書はそのあたりのテイストを自身で再確認できる格好のテキストと言える。またここに載っている作品の中に流れるポップ感覚などが、今の若いリスナーに伝われば、嬉しい限りだ。鈴木茂×佐藤博の対談や、角松敏生や堂島孝平へのインタヴューも必見。

Text by 土橋一夫(編集部)
(初出『Groovin'』2004年2月25日号)

佐野元春
『VISITORS 20th Anniversary Edition』
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『クリビアにおまかせ!』
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『Light Mellow 和モノ 669』
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