宇多田ヒカル

宇多田ヒカル、デビュー5周年（ヒカルの5？）の集大成。
日本中のファンが心に刻み続けてきた、あの思い出の曲たちが今再び飛び立つ。
もはやパニックは避けられません！あなたはきっと、時の証人となる。

（初出『Groovin'』2004年3月25日号）

　美しい歌、美しい曲に出会った瞬間の喜びは、人々に感動を与えてくれる。その感動は、その歌が持つエネルギーを人間の「こころ」というアンテナがキャッチして生まれる新たな、そして大きなエネルギーであるといえよう。
　1999年３月10日…この日は日本の音楽史上最高、そして最強のエネルギーが生まれた日である。たった1枚のCDを目当てにきた人間が全国のCDショップに殺到、発売日には即完売。メーカーも生産が間に合わず、多くの人がそのCDの到着を「いまか、いまか」と待ち望んだ。またそれを待つ人の世代は、日を追うごとに拡大していった。遂には社会現象とまで呼ばれ、ワイドショーでは毎日この状況を、更に煽るような取り上げ方をしていた。たった1枚のCD、そう宇多田ヒカルのファースト・アルバム『First Love』のために…。その後は誰もが知るとおり、シングル、アルバムを発表する度に音楽業界はパニックを起こし、日本中から渦を巻くようなエネルギーが発せられてきたのである。
　その社会的現象までもを引き起こした『First Love』の発売から早くも5年を迎え、彼女も公にされている以上に様々なことを乗り越え、アーティストとして、または女性としても大きく成長したことだろう。そんなアニヴァーサリー的な意味合いも込められたであろう、待望のシングル・コレクションがいよいよ発売される。1曲1曲がウルトラ級にヒットした曲なので、その曲を耳にしていた頃のことを思い出すことができる。まさに「思い出のアルバム」として愛され続けであろう、日本のスタンダード・アルバムになる予感すらしてならない。リスナー達が経験した様々な「出逢い」「別れ」「挫折」そして「幸せ」が宇多田ヒカルの作品とシンクロして、日本中に更なるエネルギーを降り注いでくれるに違いない。また、初めて彼女の作品に出会ったリスナーたちにとっても、新たな記念になるであろう素敵な作品で構成されている。
　彼女の作る歌、そして詞の世界は常に「絶対条件」がない。リスナーが男であれ女であれ、立場を逆転して感受することさえできる。また共感できる内容が非常に多く、それが世代を超えて支持される理由のひとつであるといえよう。そして我々は、そんな彼女の放つエネルギーに触れる事で、自らのエネルギーへと変換していく。
　音楽が作られる際には、様々な人たちの"心"と"エネルギー"が費やされる。それがリスナーに届くまでには、何十倍、何百倍となって、1枚のCDに込められていく。「このエネルギーがいろいろな形で、世の中に反映されている」と思うからこそ、音楽が今日まで伝えられてきているのだと私は確信している。これからも、音楽の持つ力をずっと信じていきたい。だからこそ、この素晴らしいアルバムと共に、再び訴えたい。「決して繰り返してはいけない。決して忘れてはいけない。」宇多田ヒカルと共に叫んだ「FINAL DISTANCE」という祈りを。「光」という輝く素晴らしい未来を信じて…。

Text by 押尾武史（沼津バイパス店）