Mr.Children

『シフクノオト』…それは、桜井和寿、 田原健一、中川敬輔、鈴木英哉という、
今最も「音を奏でることのできる喜び」を知っている4人だからこそ生まれたアルバムであり、
また、こんな時代（いま）だからこそ、本当に大切なことに気付かせてくれる大きな大きな作品だ。

（初出『Groovin'』2004年3月25日号）

　4月7日、Mr.Childrenの最新アルバム『シフクノオト』がリリースされる。あらゆる意味で注目され、期待されている作品であるだけに、その内容について、詳しくここで説明するのは控えたい。けれどその完成度の高さは、収録曲をざっと見ただけでも期待してもらえることだろう。さらにこのページ、そして1枚めくった次のページ（表紙）の彼らの写真を見てもらえばさらにしっかりと伝わると思う。これらの写真は、メンバー自らがポラロイドカメラを持ってお互いを写したものだそうだ。大きな壁を共に乗り越え、改めて音を奏でることのできる喜び（至福）を実感し、それも決して理想や他人事ではない、日常のありふれた事柄を題材にして出来上がった普段着（私服）の作品、それが『シフクノオト』だ。
　世の中には、その分野において「天才」と呼ばれる数少ない人たちがいる。桜井和寿もその中の1人だと思う。そんな彼も他の天才たちも、私たち同様人間だ。だから独りでは生きられないし、容易に大きな事を成し遂げることはできないだろう。「そう　こうして繰り返していくことが嬉しい　愛しい」と歌う「HERO」から後、彼の心からの思いは、より一層聴く者の心にまっすぐに届いてきた。さらに、彼らの思いは音楽を通じて内から外へと、このどうしようもなくなってしまった世の中へと向けられた。ラジオ・オンエアのみで届けられた「タガタメ」、そして報道番組への生出演など、その後の活動は注目すべきものばかりだ。「今こそ幸福に音楽を鳴らす時だと思うし、それが許される時だと思う。きっと、それを実感するための活動休止であったし、レコーディングだった。」と桜井は言っていたという。その思いはそのまま今作に表れている。そっと、じっと、その音に耳を傾けてほしい。
　「今　僕のいる場所が　探してたものと違っても　間違いじゃない　いつも答えは一つじゃない」（「Any」）、「希望の数だけ失望は増える　それでも明日に胸は震える　『どんな事が起こるんだろう？』　想像してみよう」（「くるみ」）…これまでもそうだったように、今作に収録されているたくさんの曲にも私はいろんな事を教えられ、救われた。音楽とは楽しむものだけれど、時として誰かを支えたり助けたり、大切な事に気付かせてくれるものでもあるのだ。
　このアルバムは、聴き終えた後に「ああよかった」と簡単に言えるような作品では決してない。全12曲、すべての「音」が耳を通って身体の芯の部分にまで強く訴えかけてくる。通して聴き終えた私は全身の力が抜け、痺れたような状態になっていた。気が付くと、うっすらと掌には汗が滲んで、瞼はじわじわと熱くなっていった。そしてどんな言葉も発することが出来ないまま、しばらくぼーっとしていた。それはまるで、ある人間の一生を追ったドキュメンタリー映画を観て、とても強い感動に包まれた後のような感覚だった。ごくごく平凡な生活の中で、主人公は大小さまざまな問題を抱え、それについて悩みつつも、最終的には自らで幸せというものを見いだしていた。様々な12の場面から構成された身近でシンプルな作品は、どれも自分の「今」と重なり、聴き終えた後もずっと心に残る。そしてなにかにつけて頭をよぎり、様々なことを考えさせられる。きっと「名作」とはこういう作品のことを言うのだろう。
　私は今作を繰り返し繰り返し聴いていくだろう。永く、ずっと聴き続けていきたい、そんな大切なアルバムがまた1枚増えたことがとてもうれしい。だからこそ1日も早く、1人でも多くの人に、このアルバムを聴いてもらいたい。そしてこの世の中に、このシフクノオトが広く、どこまでも響き渡ってほしいと強く願う。

Text by 二宮万里（編集部）