スピッツ

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スピッツ

スピッツのレア・コンピレーション・アルバムとも言えそうな、
バラエティに富んだ最新アルバムが到着。
春めく季節に草野ワールドの「揺らぎ感」を堪能しよう!

(初出『Groovin'』2004年3月25日号)

スピッツ-A.jpg 「ハチミツとクローバー」という漫画がある。美大を舞台にした恋愛模様が描かれる人気漫画だ。自分達が通っていた美大が舞台ということで大学の友人に薦められ興味本位で読んでみたのだが、これがなかなか面白い。描かれている風景や行事が懐かしいという思い入れもあるのだが、現代の作品にしてはあまりにもピュアな気持ちを持つキャラクター達が妙に新鮮なのだ。バイト、課題、クリスマスなどといったありふれた大学生活の中で、ちょっとした切なさ、喜びといった揺らぎの気持ちがみずみずしく描かれるその作風は、どことなくスピッツの世界を想像させる(スピッツの『ハチミツ』というアルバムには「歩き出せ、クローバー」という曲があったりして、タイトルからして既にスピッツ的なのだが…)。
 思えばスピッツの魅力とはこの「ちょっとした切なさと喜び」にあると思う。涙を誘う大仰な悲劇ソングや眩しさ一杯の幸せソングではなく、日常のちょっとした悲喜コモゴモが歌われる。例えば『インディゴ地平線』に収録の「ナナへの気持ち」という曲の歌詞は、彼女と国道沿いのロイホで一晩中話し込んだ末に、結局恋の進展を得られなかった男の気持ちが淡々と語られる。ちょっと天然でつかみ所のない女性に迫りたいけどいつもうまくはぐらかされる男の、ため息まじりの切なさが痛いほど伝わってくるのだ。絶望的な悲しさではなくその「ちょっと切ない」という世界観は、詞の世界だけではなくメロディやコード進行にも表れている。草野メロディで個人的に一番好きな曲は初期の名曲「田舎の生活」と、Chappieに書き贈った「水中メガネ」だが、そのコード進行は全く同じでA-Bm-E-A Fm-D-E-Aと進む。このメジャー(喜び)とマイナー(悲しみ)を行き交うコード進行が生む揺らぎが「喜びの中に潜むちょっとした切なさ」を生み出す。
 前置きが長くなったが今回リリースされたニュー・アルバム『色色衣』の話に移ろう。本作は1999年以降にリリースされたシングルの収録曲を中心に構成されているが、バラエティに富んだそれらの曲でもその草野ワールドの「揺らぎ」は堪能できる。冒頭に収録された最新シングル「スターゲイザー」はその最たるものだし、シングル『さわって・変わって』に収められていた「稲穂」の"夕暮れ感"もまさに!だ。『99ep』収録曲であり、タイトルからは想像もつかない切ないメロディが綴られる「魚」や、『ハネモネ』のカップリング曲だった「SUGINAMI MELODY」のクラシカルな美しさ、『夢追い虫』のカップリング曲の「大宮サンセット」の詞で見せる小さな、しかし優しく愛おしい世界観…。こういった曲に出会えることが僕が長年スピッツを聴き続ける最大の理由だ。もちろん今までの彼らの重要な側面であるアグレッシヴなギター・サウンドが疾駆するハードな曲も、「メモリーズ」(シングル・ヴァージョン)や「青春生き残りゲーム」(NEW MIX)、「船乗り」(『遙か』カップリング曲)、「春夏ロケット」(『ホタル』収録)等、たっぷり収録されているのでそちらが好きなファンも安心して欲しい。
 本作には超目玉「お宝」音源として、メジャー・デビュー前の1989年にデモ・レコーディングされた「僕はジェット」という曲が収録されている。当時自主制作したカセットに収録されていた音源とは全くの別テイクであり、まだパンク然とした若々しいヴォーカル、演奏を聴くことが出来る。だが、その歌詞の「変さ」も含めて現在の愛すべき世界観は既に確立されている。

Text by 高瀬康一(編集部)

『色色衣』
スピッツ-J.jpg



ユニバーサル J
発売中
CD
UPCH-1335
¥3,059(税込)

1999年以降にリリースされたマキシ・シングルの収録曲を中心に構成されたニュー・アルバム。全14曲に8人のエンジニアがミックスを担当するという凝ったミキシングが話題だ。ここ数年の彼らの様々な思いが、"色々な衣"をまとって表現されている。初回仕様はデジパック、メンバーによる特別座談会封入。

【SPITZ OFFICIAL WEB SITE】spitz.r-s.co.jp/

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