Rin'

東京芸大卒の和楽器演奏家3名による女性ユニット、Rin'。
4月にデビューを果たした彼女たちの1stアルバムが早くも完成！
日本の伝統楽器にポップス的な要素を融合、これまでになかった新たな邦楽世界が今、花開く！

（初出『Groovin'』2004年4月25日号）

　単純に、心が落ち着くのである。箏（こと）や尺八等に代表される和楽器の音を聴くと。「知らないけれど何故だか知っている」いにしえの風に吹かれているような気持ちになり、日常の瑣末な出来事に煩わされていた心がストンと落ち着くのだ。ギターやベース、シンセやドラムといった外来サウンドもいいけれど、この日本という国に生きるわたしたちの心に何の抵抗もなくすうっと浸透する音といえば、やはり和楽器がダントツなのではないだろうか。なぜならそれは、四季を織りなすこの国の風土や日本人の繊細な感受性を反映して生まれたものだから。言うなれば、和楽器は「和食」と同じなのである。イタメシやフレンチ、中華等の外来フードもいいいけれど、味噌汁や蕎麦つゆを飲んだときの、五臓六腑に染みわたるあの「安堵感」は和食ならではのもの。それと同じ作用が和楽器にはあるのである。
　今回ご紹介するRin'は、和楽器を携えた女性ユニットだ。メンバーは東京芸術大学邦楽科卒の同期生であるMana、Tomoca、Chieの3名。箏、十七絃琵琶、三絃（さんげん）、尺八といった日本の伝統楽器にポップス的な要素を融合、これまでになかった新たな和楽世界を引っさげて今年4月にマキシ・シングル『Sakitama〜幸魂〜』でデビューしたばかりのニュー・カマーだ。ちなみにこの曲は、本人出演の「ブルボン チーズおかき」CFイメージ・ソングとしてすでにオンエアされているので、耳にした人も多いのでは？
　そんな彼女たちの渾身の1stアルバム『時空』が早くも完成！「アルバム＋DVD」「アルバムのみ」と2形態でのリリースは嬉しい永続仕様。DVDにはデビュー曲のPVや初ライヴの模様をはじめ、結成から現在に至るまでのヒストリー的な映像などが収録されている。
　本作を構成する全11曲の内訳は、ヴォーカル入りが7曲、インストが4曲。ヴォーカル入りの楽曲は、重厚さとしなやかさを兼ね備えたデビュー曲「Sakitama〜幸魂〜」、清冽なサウンドと切ないメロディーが絡み合う「普遍」等、目（耳？）を見張るほど美しい旋律を備えた秀曲ばかり。一方インスト楽曲は、しなやかに流れるストリングス・サウンドで奥行きのある音世界を見事に表現した「Eternal」、シンセ＆キック音が爽やかな印象を醸し出す「Will」等、ヴァリエーション豊かなラインナップが揃っている。が、アルバム全体を通して感じられるのは、やはり和のテイスト。ポップスの要素を取り入れつつ、和楽器の持つ繊細にして力強いエッセンスを最大限に活かすワザは、まさに精妙かつ絶妙だ。
　デビュー以前より上海やニューヨーク等、海外でのライヴをこなし、世界を見据えた活動を展開していた彼女たち。トラディショナルな楽器には、その国古来の「魂」のようなものが凝縮されている。それを、時空を越えて自在に操り、海外で長らく続いている和食ブームをも凌ぐ勢いで「和楽器ブーム」をもたらしてくれるであろうRin'の今後に、そしてわたしたちが忘れかけている日本という国の「良さ」を再び見つめなおすきっかけを与えてくれるであろう、彼女たちのサウンドに大いに期待したい。本作は、素直にそう思わせてくれる珠玉の1枚だ。

Text by 秋野 櫻