平川地一丁目

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平川地一丁目

新時代フォーク・デュオ、平川地一丁目が3曲入りマキシ『君の分まで』をリリース。
ピュアでシンプルな彼らの音楽は、情報過多で複雑になり過ぎた現代だからこそ心に響く。

(初出『Groovin'』2004年5月25日号)

平川地一丁目-A.jpg あれは12歳位の頃だと思うが、家に中村雅俊の『想い出のかけら』というLPがあった。姉が彼のファンだったのだが、70年代半ばにリリースされたそのアルバムには小椋桂や吉田拓郎といったソングライターの曲が大半を占めていて、姉に隠れてかなり聴き込んだ覚えがある。小椋桂の詞や曲は小学生にはちょっと難しすぎたが、拓郎が作曲した「あゝ青春」(作詞は松本隆!)や「いつか街で会ったなら」といった曲は親しみやすくて大好きだった。そのアルバムの歌詞には譜面とギターのコードが記してあって(昔はそういうのが多かったのだ)、中学生になるとフォーク・ギターでよくコピーをした。時代はすでに80年代に入っていて、音楽シーンはテクノだニュー・ウェイヴだとカラフルに彩られ、フォークの匂いを感じるアイテムは封印されていった。中村雅俊もサザンの桑田佳祐の曲を歌ったりして、ベルボトムと下駄のイメージからは脱却していたが、その『想い出のかけら』というアルバムは自分の中での微かな70年代のイメージを象徴していて、その後もたまにひっぱり出して聴いていた。
 兄、龍之介と弟、直次郎からなる兄弟フォーク・デュオ、平川地一丁目の曲を聴いてそんなことを思い出した。父親の影響で日本のフォーク全盛のレコードを浴びるように聴いていたという事実を差し引いても、2人で初めて練習したのは吉田拓郎の「外は白い雪の夜」(これも作詞は松本隆!)で、五輪真弓の声が好きだという時代錯誤甚だしいこの少年達の出現は、時代の巡り合わせというものを強く感じさせる。彼らは例えば「ゆず」などとは違い、強烈な昭和の匂いを発散させているが、狙ってか天然なのか"あえてこの時代に"という過激な精神に、80年代がスタートしたばかりの時期に70年代のフォーク・ソングに共鳴した12歳の自分に似た感性を感じてしまう。
 さて彼らの3rdシングル『君の分まで』が6/2に発売される。タイトル曲「君の分まで」は、大切な"君"との出会いと別れをイメージさせる歌詞が綴られるミディアム・ナンバーだ。今春、中学卒業と高校入学を経験した龍之介の感情が語られているのかも知れない。アコーディオンの音色が切なさを倍増する佳曲だ。マイナー・コードで一夏の景色が綴られる「せんこうの華」は、拓郎の「夏休み」を想い出させる。歌詞に出てくる情景は彼らの故郷である佐渡島なのだろうか、前述のノスタルジックな昭和の匂いがここにも嗅ぎ取れる。そして最後の「初恋」は、故村下孝蔵が83年にヒットさせた昭和を代表する名曲だ。以前、テレビの名曲探訪といった趣の番組で、当時この曲の制作を担当した須藤晃氏が「80年代にあえて恥ずかしいくらいピュアな世界観をやった」と述べていたが、平川地一丁目はそのピュアな世界観をそのまま再現している。
 80年代に封印された70年代フォーク的世界観は90年代中頃に突如復活した。日本独自の情緒を見直すといった姿勢も70年代を知らない若い世代から登場し、ネオ・フォークといった風情の曲がラジオから流れ出した。それは後ろ向きな発想ではなく、素朴で美しいメロディやアコースティックな響きが音楽の本質の1つだと気づき始めた人の動きだと、僕は理解した。平川地一丁目のシンプルだがピュアで力強い音楽は、情報過多で全てが複雑になり過ぎた現在だからこそ心に響くのだ。

Text by 高瀬康一(編集部)

『君の分まで』
平川地一丁目-J.jpg




DefSTAR RECORDS
6月2日発売
Maxi Single
DFCL-1138
¥1,223(税込)

兄、龍之介と弟、直次郎からなる兄弟フォーク・デュオ、平川地一丁目の3rdマキシ・シングルがリリース。テレビ朝日系木曜ドラマ「電池が切れるまで」のオープニング・テーマ「君の分まで」、故村下孝蔵が83年にヒットさせた「初恋」など3曲を収録。初回盤は紙ジャケット仕様。

【平川地一丁目 公式サイト】http://www.hirakawachi1.com/

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