TMG

B'zのギタリスト、松本孝弘のソロ・プロジェクト"TMG"が遂に本格始動！
待望のフル・アルバムはヘヴィー・サウンドが炸裂する超重量級の1枚！
錚々たるメンバーを従えたTAK MATSUMOTOの"腕"が光る！

（初出『Groovin'』2004年6月25日号）

　いやあ、本作を聴いて十数年前を思い出してしまった。時は1990年前後、L.A.を中心としたハード・ロック黄金期。音楽（バンド活動）に明け暮れていたわたしは、ハード・ロックに心を奪われていた。そして……自分が日本人であることにバツの悪さを感じていた。スピーカーから吐き出される大音量に身をゆだねながらタバコの煙をくゆらせる、そこまではいいのだが、絣模様のドテラを着てコタツに入っている己の姿に気づいたが最後、なんともいえない脱力感に襲われていたものだ。「ハード・ロックに『和』は、ほんっとに似合わねぇ……」。ドテラとコタツを「和」の代表にしていいものかという問題はさておき、その頃のわたしはハード・ロック・フリークである自分自身に対して、コーラを味噌汁の椀に入れて飲んでいるような、あるいはバーボンのロックを湯飲み茶碗で飲んでいるような、そんな違和感を持っていたのである。
　だから本作を聴くにあたって、初めはかなり警戒していた。TAK MATSUMOTOことB'zの松本孝弘が始動させたソロ・プロジェクト、TMG（TAK MATSUMOTO GROUP）、そのサウンドを支えるコラボレーション・メンバーの誰もが、わたしがこれまで通ってきた、いや通らせていただいた錚々たるバンドでプレイしていたツワモノばかりだったからだ。90年代前半に日本でも絶大な人気を誇った元MR. BIGのヴォ−カル、エリック・マーティン、80年代を代表するハードロック・バンド、ナイト・レンジャーのフロントマン兼ベーシストであり90年代にはダム・ヤンキースでも活躍したジャック・ブレイズ、ザック・ワイルド、スラッシュ、スティーヴィー・サラスなど著名なギタリストのバンドでテクニシャン・ドラマーとして活躍してきたブライアン・ティッシー、レニー・クラヴィッツの作品＆ライヴをサポートしてきた女性ドラマー、シンディ・ブラックマン……。「味噌汁椀に入ったコーラ」の違和感を今また感じなければならないのか。そう思いながら恐る恐る本作『TMG I』を聴きはじめたのも無理はなかろう。
　ところが……そこに味噌汁椀はなかった。湯飲み茶碗もなかった。先行シングル「OH JAPAN 〜OUR TIME IS NOW〜」を含む全14曲はただただ、エキサイティングなサウンドに満ちていた！腹を直撃する超重量級のヘヴィー・サウンド、高密度のディストーション音、ドラマティックな展開……部屋の窓を震わせるほどパワフルなサウンド世界がそこには君臨していた。しかし、パワフルなだけで終わらないところが屈指のメロディメーカー、松本孝弘の"腕"。繊細な和のフレーズやサウンドをピリリと利かせた曲、すなわち「OH JAPAN
〜OUR TIME IS NOW〜」に見られる手法を盛り込むことによって、アルバム全体に絶妙な緩急をつけているのである。「押せ押せ」だけではないヘヴィー・サウンドには美しさが宿るもの。このことを見事に体現した珠玉の1枚だ。
　ちなみに本作は、初回盤のみ「OH JAPAN 〜OUR TIME IS NOW〜」のPVやドキュメント映像、メンバー・
プロフィールなどを収録したDVDとの2枚組仕様。TMGの圧倒的な存在感を、そしてハード・ロックと「和」のテイストを融合させたTAK MATSUMOTOの"腕"を、心ゆくまで味わってみて欲しい。

Text by 秋野 櫻