南佳孝

ARTIST PICK UP

南佳孝

海辺で過ごす豊かな生活から発せられるピースフルな空気感…。
南佳孝の5年振りのオリジナル・アルバムは、極上のAORとして大人の生活を彩る充実作だ。

(初出『Groovin'』2004年7月25日号)

南佳孝-A.jpg FM横浜で日曜の夜11時30分から放送中の「11:30 at BB」という音楽プログラムを最近楽しみにしている。茅ヶ崎に実在するバー「BB」からグラスの触れ合う音や客のざわめきと共に流れてくるGood Old Musicは、来たる週明けに向けてちょっとだけトーン・ダウンした気持ちを癒してくれる。番組のナビゲーターである南佳孝(湘南在住)の、大人の粋な語り口が更に落ち着きを与えてくれる。
 番組中に彼の新作アルバム『ROMANTICO』からいつも1曲だけ選曲されるのだが、60's〜70'sのAORやSSW系の曲に混じって何の違和感も無いのに驚く。特にマキシでもリリースされたナッシュヴィル・スタイルのルーズなミディアム・ナンバー「遙かなるディスタンス」の穏やかな空気感は、L.A.〜ブラジル〜湘南に共通するピースフルな匂いを放つ。時間とか距離を超越した豊かな人間関係の大切さを記す詞は僚友松本隆によるものだ。アルバムには他にもクオリティの高い曲が並ぶが、中でも「海を見ている」という曲は80年前後の彼の作風を思い出して嬉しくなった。僕は時々茅ヶ崎に行ってわけもなくぼーっと海を見ているのが好きなのだが、この曲はまさにその時のテーマ曲になりそうだ。どことなく初期のトム・ウェイツを感じさせる4ビート・ナンバー「MOON SPLASH」は夜の浜辺で月を見ながら聴きたいし、まるで映画「デスペラード」でアントニオ・バンデラスが歌いそうな濃厚なラテン・ナンバー「MARIA MARIA」は、灼熱の浜辺で皆と踊りながら聴きたい。彼の十八番とも言えるボサ・ノヴァ・ナンバー「雨の魚」や、キリンジの堀込高樹が手掛けた大人の恋愛小説風の詞が秀逸な「ホテルに棲む女」など、特筆すべき曲はまだまだ多い。
 この前「BB」で友達と飲んでいたら、ふらっと南氏が現れた。地元の常連客数人が「よおっ」という感じで迎える。その互いのあまりにも自然なコミュニケーションに、地元密着型ミュージシャンの理想の姿を見た気がする。本作から漂う余裕と穏やかな空気は彼自身からも十分に発せられていた。

Text by 高瀬康一(編集部)

『ROMANTICO』
南佳孝-J.jpg



ビクターエンタテインメント
発売中
CD
VICL-61441
¥3,150(税込)

オリジナル・アルバムとしては5年振りとなる新作は、クオリティの高い曲が並ぶ充実作となった。O.A.中の佐川急便CM曲「遙かなるディスタンス」や、ボーナス・トラックとして2004年新録版の「そばかすのある少女」や、ランディ・ニューマンのカヴァー「SAIL AWAY」も収録。

【南佳孝 オフィシャルホームページ】http://www.minamiyoshitaka.com/

inserted by FC2 system