元ちとせ

8月4日、久しぶりに彼女の歌声に会える。
故郷・奄美の温かさに包まれて、のびやかに舞い唄う歌姫、元ちとせ。
彼女の存在感の強さを再確認できる、初のライヴ・アルバム&DVD !!

（初出『Groovin'』2004年7月25日号）

　100年に1人の歌声、デビュー前から故郷・奄美大島では、彼女の名前を知らない人はいないくらいの有名人だった。小学生の頃から島唄に親しみ、中学3年で県民民謡大会優勝、高校3年で「奄美民謡大賞」の「民謡大賞」を最年少で受賞する。
　彼女の出現は、日本の音楽シーンにこれまでになかった新しい風を吹き込んだ。島で受け継がれてきた伝統と文化という力強い後ろ盾と、生まれもったシンガーとしてのセンスが、忘れられつつある"心の唄"を呼び覚ます。彼女から発せられる歌声は、もはや回帰的なルーツ・ミュージックではなく、現在進行形のものとして、民謡のテクスチャーを卓越したポップスに還元できる力をもっているのである。そして、聴く者は記憶や感傷の襞が優しく潤っていくのを感じるのだ。彼女の神々しいまでに圧倒的な歌声、いまや元ちとせの唄う歌は奄美だけではなく、日本いや、世界中から称讃を浴びている。
　彼女の歌の凄さはライヴで遺憾なく発揮される。彼女が一声発しただけで会場内の空気が張り詰め、全ての雑音を制する力を持つ。そこにいる全てのものが彼女の歌声に支配されるように。ある者は鳥肌を立て、ある者はぽかんと口を開け、皆がステージに釘付けになるだろう。それはまさに"神に選ばれた声"である。まだライヴを体験したことがなければ、ぜひ"生"で彼女の歌を聴いて欲しい。
　そして今回、昨年行われた初ツアーの最終日、2003年12月8日奄美振興会館でのライヴを収めたアルバムとDVDが発売される。"生"ではないが、ライヴ未体験の人は"生"の臨場感を、ライヴに行った人はあの感動と興奮がまた再現されるだろう。このライヴの後、結婚・妊娠を公表し、彼女は公の場でのパフォーマンスはこれを最後に産休に入っている。彼女の故郷に対する思い……他のライヴとは違う格別な思いがここにはあっただろう。「歌詞の意味がなんか全部ここにあるような気がしたので、泣きそうになりながら唄ってましたね。」島で感じていたことが、また歩き出せる一歩になったという。
　インタヴューの中で彼女は「もっともっと唄いたい、それが一生の目標ですね。」と語ってくれた。母として、また女性として成長していく中で、これからどんな歌を聴かせてくれるのかとても楽しみである。それまでは今作に収められた"24歳の元ちとせ"を目に耳に焼きつけておこう。

Text by 谷口郁子（玉川高島屋店）